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アジトの静寂を、裸足の足音が小さく刻む。
すちは、自分には大きすぎる黒いパーカーの裾をぎゅっと握りしめながら、月明かりが差し込む長い廊下を独り歩いていた。
(……静かすぎて、怖い。……血の匂いが、しない)
今までずっと、耳鳴りのような怒号と鉄の匂いの中で生きてきた。
あまりの静寂に、自分の心臓の音だけがうるさく響く。「生きている」実感を得るために、無意識に袖をまくり、包帯の巻かれた腕に爪を立てた。
「……あ。……出さなきゃ。赤、……出さないと、僕が消えちゃう」
過呼吸気味に肩が上下する。瞳が虚ろに濁り、包帯を力任せに引きちぎろうとした、その時。
「——おい。やめろって言っただろ」
背後から伸びてきた大きな手が、すちの両手首を優しく、けれど逃げられない強さで包み込んだ。
驚いて振り返ると、そこには寝付けなかったのか、グラスを手にした暇72が立っていた。
「……なつ、さん……。……ごめん、なさい。おれ、また……」
「謝るな。……ほら、こっち見ろ」
なつはすちの前に膝をつくと、震える小さな体を自分の上着で包み込み、そのまま廊下の壁に背を預けて座り込ませた。
すちの手首を握ったまま、自分の鼓動が伝わるようにじっと体温を分ける。
「……怖いか。静かなのが」
「……うん。……おれ、何もないから。……絵も描いてない、血も出てない僕は、ただの……ゴミ、だから」
ポロポロと、堪えていた涙が萌え袖に吸い込まれていく。
なつは溜息をつくと、空いている方の手ですちの頭を乱暴に、でも愛おしそうに撫でた。
「ゴミなわけねぇだろ。……お前がここにいて、こうして俺の手を握り返してる。それだけで十分なんだよ」
なつはすちの萌え袖を少し捲り、傷跡ではなく、温かい肌の上にそっと唇を寄せた。
「……痛いのは、もうおしまいだ。……代わりに、俺たちの名前を刻んどけ。消えないように、何度でも呼んでやるから」
不器用で、けれど真っ直ぐな言葉。
すちはなつの胸に顔を埋め、彼の心臓の音を聞きながら、少しずつ呼吸を整えていった。
「……ねぇ、なつさん。……明日も、おれの名前、呼んでくれる?」
「あぁ。……うるさいくらいにな」
やがて、異変に気づいたLANやみことたちも集まってくるが、なつはすちを離そうとしない。
「こいつは今、俺が担当中だ。……お前らは毛布でも持ってこい」
孤独と狂気に染まっていた夜が、一人の男の体温によって、静かな安らぎへと塗り替えられていった。
次回♥️100
コメント
4件
すちくんがゴミだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なつくんの言う通りでございます!
好きです