テラーノベル
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5
深夜二時。ふかふかのベッドは、すちにとってまだ「余所行き」の場所でしかなかった。
横になっても、耳の奥で誰かの怒号や鉄の擦れる音が響く気がして、ちっとも眠れない。
(……喉、かわいた。……お水、飲めるかな)
すちは、なつ(暇72)に借りた大きな黒いパーカーの裾を引きずりながら、音を立てないように部屋を出た。
長い廊下を抜け、広いリビングとキッチンへ。
暗闇の中、冷蔵庫の僅かな光だけを頼りに、萌え袖の先から指を出して、冷たいグラスに手を伸ばす。
「……つめたい」
水を一口含んだ瞬間、不意に、昼間の優しい光景が夢だったのではないかという恐怖が込み上げた。
もし明日目が覚めて、またあの血の匂いがする地下室にいたら。
もし、あの人たちが「やっぱりいらない」と言い出したら。
(……怖い。……また、赤、出さないと。……捨てられちゃう)
すちは震える手で、無意識に包帯の巻かれた腕をぎゅっと掴んだ。
爪が白い布に食い込み、自傷の衝動が爆発しそうになった、その時。
「——おい、何してんだ。……そんなところで震えて」
背後から低く、けれど落ち着いた声が響いた。
心臓が跳ね上がり、すちはグラスを落としそうになる。
そこに立っていたのは、寝癖のついた髪をかき上げ、眠そうに目を細めたなつだった。
「……なつ、さん。……ごめんなさい。お水、勝手に……」
「水くらい好きに飲めよ。……それより、その手。離せって言っただろ」
なつは足早に歩み寄ると、すちが自分の腕を掴んでいた手を、大きな掌で包み込んで引き離した。
その手は驚くほど熱くて、すちの冷え切った指先がじわりと溶かされる。
「……眠れなかったのか」
「……うん。……ここ、静かすぎて。……僕、本当にここにいていいのか、わからなくて」
俯くすちの額に、なつが自分の額をこつんとぶつけた。
あまりの至近距離に、すちは息を呑む。
「いいか、よく聞け。……お前が寝てる間も、俺たちはここにいる。お前を捨てるくらいなら、このアジトごと爆破してやるよ」
不器用すぎる、けれどなつらしい「愛」の言葉。
なつはそのまま、すちをひょいと抱き上げると、キッチンのカウンターに座らせた。
「ほら、ミルク温めてやる。……それ飲んだら、俺の部屋で寝るぞ。一人じゃ怖いんだろ?」
「……え。……なつさんと、いっしょ?」
「あぁ。文句ねぇよな。……お前を一人にしとくと、また勝手に消えそうだからな」
なつが温かいミルクを作る背中を見ながら、すちは萌え袖の先で、こっそり涙を拭った。
やがて、異変に気づいて起きてきたLANやみことたちもキッチンに集まってきて、「深夜のミルクパーティー」が始まってしまう。
「なっちゃん、ずるい! すちくんと寝るなら僕も!」
「……うるせぇ、みこと。こいつは今、俺が保護してんだよ」
賑やかになっていく深夜のキッチンで、すちはようやく、自分の居場所を見つけた気がした。
次回♥️100
コメント
2件
はい、もう大好きです! ありがとうございます!
甘月 莉兎
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