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冷たく言い放った彼は、無表情だった。
「ちなみに全部そこにまとめてある」
私は立ち上がり、荷物を確認する。
えっ。これだけ?本当に!?
洋服とか下着とか、バッグとかアクセサリーは……?
ゴミ袋、二つだけになっていた自分の荷物が信じられなくて、寝室に入ろうとした。
「おいっ!そっちは!!」
優人に掴まれたが、振り払い、部屋に入る。
ベッドの上には、女の子が座っていた。
金髪で髪の毛がクルクルで、細くて、可愛い。私とは正反対。
これが浮気相手?
相手は気まずそうに「こんにちは」と挨拶をしてきた。
私はその挨拶を返す余裕がなかった。
クローゼットやタンス、カラーボックスなどを見る。
「本当に……。何もない……」
お金のことや荷物のショックで、その場に膝をついてしまった。
涙も出てこない。
これからどうすればいいの?
私は、なんてバカだったんだろう。
「ちょっと、桜!大丈夫?しっかりして!!」
遥さんの声がする。
「そういうことだから。早く荷物持って出て行ってくれる?俺はもう関係ないし。別れたいって言って一方的に出て行ったのはお前だろ?」
壁に寄り掛かりながら、優人は私を見下している。
私はどうしてこんな人を好きになってしまったんだろう。
「テメー、ふざけんな!」
彼の言葉を聞き、興奮した遥さんが優人を殴ろうとしている。
その光景を見て、私はハッと我に返った。そんなことしたら遥さんが不利になる。
引き止めようとしたが、手が届かない。
その刹那ーー。
「やめろ」
蒼さんが遥さんの手を止めた。
「蒼!止めないでよ!こいつ、許さない!」
遥さんの手は蒼さんの手によって全く動かなかった。
優人は腰を抜かしたのか、床に座り込んでしまった。
いつも私のこと殴ってたくせに、殴られるのは慣れていないんだ。
「こっちが先に手を出したら、面倒くさいことになる。冷静になれ」
彼の一言で、遥さんが少し落ち着きを取り戻した。
「すみません。姉の大声が聞こえてきたんで、家に入らせてもらいました。これで帰りますので」
優人に向かって話しかける蒼さん。
「はぁ?こんなんで帰れるわけ……」
遥さんが蒼さんに向かって言い返そうとした時
「だから、冷静になれよ。一番辛いのは桜だろ?」
その一言で遥さんは何も言わなくなった。
「桜、立てる?」
先ほどとは違う、優しい声音。
「はい」
私は、返事をして立とうとした。だが、立った瞬間フラッとしてしまい、蒼さんに寄り掛かってしまった。
「ごめんなさい。ちょっとフラフラしちゃって……」
気分は最悪だった。足に力が入らない。
「わかった」
彼は私の足元を掬い、抱きかかえてくれた。
へっ。これってお姫様だっこ!?蒼さんってそんなに力あるの?
私、すごく重いけど。
「あのっ、蒼さん?」
私が降ろしてくださいと頼んでも彼は何も返事をしてくれなかった。
部屋から出る際に
「もう二度と桜に関わらないでください」
すごく冷たい目で優人にそう告げていた。
蒼さんって椿さんだよね?同じ人だよね?雰囲気が違いすぎる。
「姉ちゃん、桜の荷物持って。それくらいなら持てるだろ?」
「うん。大丈夫」
遥さんもいつもの遥さんだ。
私は蒼さんに抱きかかえられたまま自分の住んでいたアパートを後にした。
タクシーで蒼さんの家に三人で帰宅をした。
タクシーを降りる時には精神的に安心したためか、支えてもらえれば歩けるくらいになった。
遥さんの腕に支えられながら、ソファーに座らせてもらう。
「蒼さん、重かったですよね?すみません。ありがとうございました。遥さんも」
蒼さんは「いや、全然平気」そう言ってキッチンへ向かった。
「気にしないで。あいつ、見かけによらず力だけはあるから?」
ふぅとため息をつきながら、私の隣に座る遥さん。
「はい、コーヒー」
蒼さんがコーヒーを淹れてくれた。
「あっ、桜の甘くしないと飲めないよ?ブラック苦手だから」
あぁ、遥さん。そんなこと言わなくても大丈夫なのに。
「あっ、飲めます!大丈夫……」
「そっか。じゃあ、砂糖とミルク入れてくる」
私のコーヒーを持ち、再度蒼さんはキッチンへ戻って行った。
「あら?蒼、本当に桜には優しいのね」
蒼さんは優しい。
椿さんの時もそうだったけど。いろんなところに気を遣えて。
今日だって一番落ち着いていたの、蒼さんだし。すごく頼りになる。
蒼さんに向かって男性?って言っていいのかわからないけれど、逞しいと思ってしまった。
「はい、桜。飲んでみて。まだ苦い?」
蒼さんがコーヒーを渡してくれた。
「ありがとうございます」
一口飲む。
「美味しいです!」
私好みの砂糖とミルクの量、蒼さんってすごいな。
「良かった」
フッと笑ってソファーへ座る彼。
一呼吸ついたところで私から話を切り出した。
「今日は本当にありがとうございました。お二人にはなんてお礼を言って良いのかわからないくらい感謝しています。きっと一人じゃあんなに言えなかったし、怖くて……。逃げてしまったと思うから。二人がいたから闘えました。ありがとうございました」
深く頭を下げる。