事件対応を終えて備品室に向かっていると電話が鳴った。
「誰だ?…もしもしこちら特殊刑事課つぼ浦。」
「あ、すいません車が壊れちゃって動かなくて、インパウンドお願いしたいんですけど。」
「あぁ良いぜ、場所どこだ?」
指定された場所に向かうと見慣れない男性が立っていた。
「待たせたな!この車だな?えーと…よしこれでOKだ、南署に行けば取り出せるぜ。どっか送るか?」
「ありがとうございます、じゃあ乗ってピン刺しますね。」
「おぉ、頼んだ。」
「えー…ここでお願いします。」
「こんな山ん中で良いのか?」
「近くに家があるんです。」
「なるほどな、じゃあ向かうぜ。」
車を走らせている道中ずっと視線を感じて横目に見てみると目が合った。と思ったらハンドルを握る手を触ってくる。
「ちょっ!?あ、危ないからやめてくれ。事故っちまう。」
「つぼ浦さん程の運転技術があるならこのぐらいで事故らないでしょ?」
そう言いながら手を握られると急に嫌な汗が全身から吹き出てきた。もうさっさと送って帰ろうとアクセルを踏み込み運転に集中した。
「…よし着いたぜ、降りてくれ。」
「つぼ浦さんも降りてください。」
「ん?なんでだ?」
「少し用事があって、お願いします。」
車から降りて立つと突然男が抱きついてきて腰を卑猥な手つきで撫でられた。自分にそういう感情が向けられていると理解した途端全身に鳥肌が立ち、身体が震え呼吸が上手くできず目眩に襲われた。立っていられなくなりその場に座り込む。
「かっ…はっお前…だれだ、やめ…はっ…ろ…」
「なんとこれは都合の良い。」
そう言ってつぼ浦の両脇に腕を入れて引きずろうとする。逃げたいが力が入らず抵抗できない。
「ここのシグナルの人大丈夫かな?特殊だからつぼ浦さんかキャップだ。足無くなっちゃったんじゃない?」
「本当だ、ちょっと見てから帰ろうか。」
大型事件対応帰りの赤城とさぶ郎がヘリで上空を飛んでいた。つぼ浦のパトカーを見つけた後サーマルで辺りを見てみると明らかに普通では無い状況が見て取れた。
「降りよう、さぶ郎銃構えといて。」
「はい…!」
「おいお前!何してるんだ!」
声をかけた瞬間つぼ浦から手を離し森の中へ逃げ出した。さぶ郎が追いかけていく。
「つぼ浦君!?大丈夫!?」
「はっ…ゴホッ…さ、わるな…だれだ…」
「赤城だよ、つぼ浦君。何があったの?」
「あ?あかぎれ…さん…?」
「うん、とりあえず落ち着いて。水飲める?」
水を飲み少しだけ落ち着いたら説明しようと必死に声を出した。
「はっ…はっ…あ、アイツに急に…抱きつかれて…」
「そういう事か…『らだお君今すぐに赤城のシグナルの所来て!』」
「『今飛行場対応中です。』」
「『それ所じゃない、つぼ浦君が大変なんだ!』」
「『了解、すぐ行きます。』」
ガクガク震え呼吸の浅いつぼ浦の肩を持ち青井を待っているとさぶ郎が戻ってきた。
「ごめんなさい逃げられちゃった…つぼ浦さん大丈夫?」
「はぁ…あぁ大丈夫だ、ごめんな安保くん…ゴホッゴホッ…」
「今無理に喋ると苦しいよ。…あっ来た!つぼ浦君らだお君来たよ!」
「…アオセン…?」
ヘリから降りて駆け寄ってくる青井に精一杯力を込めて手を伸ばす。優しく包み込まれると安堵からか涙が滲んできた。
「つぼ浦どうした!?何があったんですか?」
「とりあえず乗ろう、早く落ち着ける場所行ったほうが良い。ヘリの中で話すよ。さぶ郎はそっちのヘリお願いね。」
「ありがとうございます、お願いします。つぼ浦家帰ろう。」
赤城が運転しながら状況を説明した。青井はつぼ浦の肩を抱き、手を握りながら聞いていた。
「無理しないで、ゆっくり休んでね。お疲れ様。」
「ありがとうございました。家着いたよ。」
抱きかかえてリビングのソファに座った。まだ震えている身体を擦りながら声をかけると我慢していたであろう涙が溢れてきた。
「もう大丈夫だよ、安心して。」
「…ひっく…あおせ、あおせん…うぅぅ…」
「辛かったな、怖かったな。ごめんね、守ってやれなくて。」
「ちが、あおせんのせいじゃない…ひっく…おれが、ごめん…」
「なんでつぼ浦が謝るの?つぼ浦が悪い所1つも無いよ。」
「だって…あおせん以外のヤツに抱きつかれて…あおせんやだろ?おれがもっとちゃんと避ければ…ううぅごめん…」
「そんなの気にしてたの?お前はこんな時まで本当に優しいな。つぼ浦をこんなにした犯人は憎いけど、つぼ浦を責めようなんて気一切無いよ。」
「ほんとに?きらいになってない?」
「なる訳無いだろ。ずっと好き、ずっと愛してる。」
「…そっか、よかった…」
少しだけ上がった口角を見てホッとしたが涙は溢れ続けまだ身体は震えている。優しく強く抱き締めながら声をかけ続けた。
「今日は夜何食べたい?」
「んー…奇肉。」
「すごいチョイスだなw冷蔵庫にあったよね、いっぱい食べよう。明日は仕事休むか、何する?どっか行きたい?家にいたい?」
「…家が良い。」
「じゃあ家で1日ゆっくりしよう。落ち着いてきた?」
「うん、もう平気。」
「無理しないでまた辛くなったらすぐ言って。風呂でも入ってサッパリする?」
「そういえば泥だらけなんだった。」
風呂、食事と済ませたが度々あの感覚を思い出してしまい青井に抱きついて縋った。青井は怖い、怖いと小声で呟きながら震えるつぼ浦を見てただ抱き締める事しかできない不甲斐なさと歯痒さを感じる。
「今日はもう早めに寝ちゃうか。ベッド行こう。」
「まだ眠くないす。」
「でも身体休めないと。おいで。」
つぼ浦をベッドに下ろしてからちょっと待ってて、と水を取りに行った。戻って来ると不安げな顔をしながら抱きついてくる。
「大丈夫だよ、ずっと一緒。」
「うん知ってる。アオセン…」
抱き締めながら夜遅くまで話しているとやっとちゃんと笑ったつぼ浦の頬を撫でた。
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