テラーノベル
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雨が降っていた。
ネオンに濡れた東京の夜は、まるで血のように光を滲ませている。
雑踏の音、車のクラクション、誰かの笑い声。
そのすべてが、どこか遠くに感じられた。
「……また、だ」
榊 悠斗は、足を止めた。
視線の先。
路地裏に続く細い道。
そこに“違和感”があった。
——人が、いる。
いや、人“だったもの”かもしれない。
「おい……大丈夫か?」
声をかけた瞬間、後悔した。
その“男”はゆっくりと振り向く。
顔の半分が、黒く崩れていた。
まるで肉が腐食しているように、
いや——“食われている”ように。
「……タスケテ」
かすれた声。
次の瞬間、男の口が裂けた。
人間の顎ではありえない角度まで開き、
内側から“何か”が蠢く。
「ッ!?」
逃げようとしたが、遅かった。
黒い触手のようなものが、地面を這い、
一瞬で悠斗の足に絡みつく。
転倒。
冷たいアスファルトの感触。
「なんだよ……これ……!」
男の身体が膨張する。
皮膚の下で何かが動き、
骨が軋み、形が変わっていく。
もはや人間ではない。
“捕食者”だった。
「——いただきます」
声は、男のものではなかった。
その瞬間。
——パンッ
乾いた音が、雨を切り裂いた。
黒い触手が弾ける。
「……は?」
悠斗の視界に入ったのは、一人の少女だった。
フードを被り、無表情。
その手には拳銃。
「下がって」
短く、冷たい声。
次の一発。
化け物の頭部が吹き飛んだ。
黒い液体が雨と混ざり、地面を染める。
「……終わり」
少女は無機質にそう言った。
悠斗は息を呑む。
「な、なんだよ……あれ……」
少女はちらりと悠斗を見た。
その目には、驚きも、恐怖もない。
ただ——“慣れている”。
「知らないの?」
静かに言う。
「この街じゃ、普通だよ」
一歩、近づく。
「人はね、もう“人だけ”じゃない」
雨音が強くなる。
「中から喰われて、別のものになる」
少女は空を見上げた。
ネオンが滲む。
「ここは東京——」
ほんの少しだけ、口元が歪む。
「“共喰いの街”だから」
——その夜、悠斗の日常は終わった。
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