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投稿ありがとう🫶💕︎︎ 今回、いつもと違うシチュでめちゃくちゃ好みなのぉ♪ 大好き(><)♡
1年に1度の大切な日ですが変わらず体調不良を書きます。お許しください。
朝から、ほとけは少しぼんやりしていた。
喉の奥がひりついて、胸の奥が重い。少し走っただけで息が上がるいつもの体質が、今日はいつもより悪い気がした。でも、いふくんに心配かけたくなくて言わなかった。
同居している部屋のリビングで、いふはお気に入りの小物を磨いていた。祖父から受け継いだ、小さな懐中時計。普段は滅多に触らない、いふの「特別」だ。
「いふくん、それ、今日も磨くの?」
「ああ。落としたら終わりなんやから、ちゃんと手ぇ入れとかんとアカンねん」
その時だった。
ふらっと眩暈がして、ほとけの足元が揺らいだ。テーブルに手をつこうとして、置いてあった懐中時計に指が当たる。
――カンッ。
床に落ちた懐中時計は、嫌な音を立てて蓋が曲がった。
「……え?」
「あっ、まっ……ほとけ!!」
いふが手を伸ばした時には遅かった。
「ご、ごめん……僕、そんなつもりじゃ……!」
「つもりじゃ、で済む話ちゃうやろ!! それだけは絶対に壊したらアカンって、前にも言うたよな?」
いふの声は怒りよりも、悲しみが混ざっていた。
それが余計に胸に刺さる。
「ほんとに……ごめん……でも、僕ちょっと体調が……」
「言い訳すんな!! ……もうええわ。今日は出てってくれへん? 俺、ちょっと頭冷やしたいねん」
ほとけの胸の奥がズキッと痛む。
怒鳴られた痛みじゃない。
ずっと我慢していた息苦しさが、もう限界だった。
「……わかった。出てくる……ごめんね、いふくん」
上着だけ掴んで、ふらりと外に出た。
夜の風は刺すように冷たくて、肺がすぐに悲鳴を上げる。
「……っ、はぁ……寒……」
肺の奥がぎゅっと縮まって、咳も止まらなくなった。
足に力が入らず、ほとけは電柱にもたれかかったまま、ずるずると座り込む。
――こんなつもりじゃなかったのに。
視界がじんわり暗くなっていく。
*
「……ほとけ、どこ行ったんやろ」
時計の壊れた蓋を見つめながら、いふは唇を噛みしめた。
「やりすぎた……俺、なんであんな言い方してしもたん……」
ほとけが謝ってた顔。
朝から体調悪そうだったこと。
全部頭をよぎる。
「アカン……探しに行かな」
上着を掴んで外に飛び出した。
冷たい風が肌を刺す。でもそんなのどうでもいい。
「ほとけ! どこおるん……返事してくれ……!」
通りを何度も走り回り、角を曲がった瞬間――
「……ほとけ……!?」
電柱の陰で、小さく丸まって倒れているほとけがいた。
駆け寄ると、ほとけの体は氷みたいに冷たい。
「嘘やろ……しっかりしてや……! ほとけ!!」
抱き上げる腕が震える。
「なんで言わんねん……しんどかったんやろ……馬鹿や、俺……!」
*
布団の中で、ほとけはゆっくりとまぶたを開いた。
胸の奥がじんじん痛くて、息が浅い。
「……いふくん……?」
「ほとけ……! よかった……ほんまに、良かった……」
目の前でいふが泣きそうな顔をしていた。
見たことないくらい弱い声。
「ごめんな……俺、怒鳴って追い出して……お前、こんな状態やったなんて……」
「違うよ……僕が……壊しちゃったのが……悪いんだよ……」
「ちゃう。壊れたもんは直せる。でも……ほとけは、替えがきかへんねん」
そう言って、いふは震える手でほとけの頬に触れた。
「俺……お前が倒れてんの見て……自分が許せんかった。もう二度とあんなこと言わへん。だから……帰ってきて。俺のそばにおってくれ」
涙がにじむ。
ほとけは弱く微笑んで、いふくんの手を握り返した。
「……うん。帰るよ。いふくんのところが……僕の家だから」
「ほとけ……」
次の瞬間、いふはそっと額を合わせる。
温度がじんわり伝わって、胸の痛みがひとつ溶けた。
「もう離さん。寒い思いも、苦しい思いも……させへん」
「……じゃあ、ずっとそばにいて」
「当たり前やろ。俺の大事な……ほとけやねんから」
ふたりの指が絡んで、ようやく息が楽になった。
壊れた時計よりもずっと大切なもの――
それは、そばにいてくれる相手だった。
꒰ঌ𝐇𝐚𝐩𝐩𝐲 𝐁𝐢𝐫𝐭𝐡𝐝𝐚𝐲໒꒱