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#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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「あらー。ルームシェアって家のものは何も持って行かなくてもいいの? パジャマも?」
「学校の教科書ぐらいはいるだろー。父さんのパソコンは持って行かないでな」
「お姉ちゃんがいない間、二段ベットの二階で寝ていい?」
私の両親は、私が恋愛結婚憧憬症候群だと告げると「やっぱりね」「まあ、しょうがないよ」と驚かずに、契約書とお見合いセンターのパンフレットを見せてくれた。
某大型テーマパークぐらいあるお見合いセンター。遊園地、水族館、映画館はもちろん、スポーツセンター、ショッピングモール、病院、ヘアサロン、大型図書館、空港まである始末。
私にはお見合いセンターの通行証とルームキーが送られてきた。通行証には未成年は一日一万円の限度額で買い物もできるらしい。
これがお見合いじゃなくて水咲とか友達とのプチ旅行なら最高だったのに。
「ねえ、私が花巻一慶さんと結婚してもいいの?」
「貴方がいいならもちろんよ」
お母さんは妹とドラマを観ながら呑気に言う。
「花巻くんは、絶対にうちの流伽を指定してくると思ったしなー」
お父さんもビールを片手にソファに座り、ドラマに視線を向ける。
「お母さんは、一河くんも良かったのよー」
「一河お兄ちゃんは、私も好きだった! あんな豪邸に私も住みたい」
お見合いなんて二年先だから余裕そうな妹の梨伽と、とっくに義務のお見合いから解放された母。二人の言葉は当事者の私とは違い薄っぺらくて重みがない。
「一慶くんなら、私たちは絶対に反対しないし、あとは流伽がちゃんと一慶くんと心を通わせてから決めなさい」
「……うん」
「お見合いセンターのリハビリ施設ってブランド物のコスメ使い放題らしいから、元気出して」
確かにスイートルームみたいな豪華な部屋だよ。
でも私の相手のハムスターは、初対面でブリッジしながら挨拶してきたり、絶対に普段から声が大きそうな筋肉マッチョな人なんだよね。
そんな人と趣味なんて絶対に合わなさそうだし、甘い恋愛に発展する気がしない。
平均結婚年齢が17.3歳。
女性の平均出産年齢18.9歳
平均出産人数2.3人
私たちは16歳になるまで国に大事に育てられた『子どもを産む機械』みたいで、今の法律や環境に偶に疑問に思う。
お金をあげる!
何でも手に入る環境を上げる!
その代わりに恋愛は諦めて、3人以上の子どもを産んでね。
5人以上産んだら、育てやすい豪邸を国が建ててあげるよ。
私たちに求められるのは生産率。人口の回復。
恋愛なんてしている場合じゃないんだよって、今までの負の遺産を全て背負わされた。
お金や環境、授業の洗脳のせいで私たちは自由が奪われていることに気づいていない。
「って思うんだけど、どう思う?」
登校しながらぼんやり考えていた気持ちを水咲にまとめて吐露すると、髪を下ろしげっそりした顔で私を見ている彼女にぎょっとする。
「えっと……水咲?」
「ああ、ごめん。流伽の考えは間違っていないと思うわ。いざ法律で縛ると、途端に恋愛が大事に思えてくるのよ。きっと。うん」
「だ、大丈夫?」
いつも乱れなんてない、綺麗な三つ編みの髪がくるくるとあちこちに跳ねた髪に代わっている。
水咲はどうやら天然パーマらしい。三つ編みを解くと、おそろしいほどまとまらない髪が、制服の上で踊っている。
「大丈夫じゃないわ。大体、お見合いの法律っておかしいのよ。成功したら公言してもいいけどお見合いが失敗した場合は、そのお見合いについて一切公言してはいけないってさ。お見合いの悪いパターンの隠蔽よね」
「えっと、まあ、確かに」
昨日、水咲がお見合いの途中でブザーを鳴らされてしまったこと、私がプロレスラーの花巻さんと校内を歩いていたこと、一河のお見合いの内容、それらすべてはお見合いが成立するまで他の生徒は詳細を聞いてはいけないことになっている。
そのルールに不平不満を水咲は言っているが、私は昨日のように文句を言っていいか考える。だって水咲のお父さんって、お見合いの法律の――。
「ねえ、立崎さん」
会話を遮られ、廊下から名前を呼ばれた。
私たちの高校は、淡い水色のセーラー服で、スリッパの色で学年を分けている。
私たち一年は青、二年は赤、三年は緑。
廊下から私を読んでいる女子生徒のスリッパの色は緑。つまり三年生だ。
全く知らない三年生に呼ばれ、戸惑ってしまう。
「あのう、どうしたんですか?」
「詳しい状況は聞かないから、お願い! 花巻一慶さんのサインをもらってきてくれないかしら」
茶髪で化粧をばっちりしている三年生の先輩が色紙を4枚私に差し出してきた。
差し出してきた薬指には結婚指輪がはめられている。
婚約指輪は好きな指にはめていいことになっているが、薬指は結婚指輪だって決まりがある。
「きいてる? 私、めっちゃプ女なの。お願いー」
「プ女?」
「平成の時代に流行った言葉よ。プロレス大好き女子の略なの。私の家族、熱狂的なプロレスファンなの。お願い」
「はあ、そうなんですね」
ちらりと水咲の方を見る。クラス委員長で政治家の家系に生まれたせいで正義感の強すぎる彼女は、年上でも風紀を乱していたら注意するはず。
彼女が何も言わないということは、この先輩がしていることは咎めないでいいことなのであろう。
「えっと花巻さんに渡してみますが、貰えるかは私には分かりません」
「あ。そっかー。でも私の色紙が花巻さんに渡るのってちょっと興奮する。やっべ。お願いね」
「はーい。あの!」
興奮して喜んでいた先輩は、私の顔をじっと見る。
「その、花巻さんってどんな人なんですか?」
「どんなって?」
「その、自称紺碧の王子様って言ってたけど、私、お仕事に関してはよく知らなくて」
「えー……そうねえ」
先輩は携帯の画面を触ると画像を探し始めた。
そしてすぐに私の目の前にその画像を差し出してきた。
「これ。なんかあ、休日もずっとストレッチとかトレーニングしてるらしくて、綺麗な肉体美なの」
「……はあ」
私には、裸のハムスターが筋トレマシーンに仰向けで寝転んでいるようにしか見えない。
「常に体を鍛えるストイックさ、しゃべると子どものように可愛い無邪気さのギャップ? あと紺碧色の瞳は確かに王子様かなー」
「紺碧色なの!?」
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