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side 大森
朝。
カーテンの隙間から
やわらかい光が差し込んでいた。
僕はゆっくりと目を開ける。
頭が少しぼんやりしている。
「……ん」
小さく声を出して、天井を見る。
(あれ)
ここは自分の部屋じゃない。
いや、正確には——
自分たちの家のリビングだ。
ソファの上に寝ている。
体にはブランケットがかかっている。
そこで、昨日の記憶が少しずつ戻ってくる。
ライブの打ち上げ。
お酒。
帰り道。
ソファ。
(……あ)
そこまで思い出した瞬間。
僕は勢いよく起き上がった。
「……え」
心臓がドクンと跳ねる。
記憶が、断片的に戻ってくる。
涼ちゃんの肩に寄りかかったこと。
若井を呼んだこと。
2人を引き寄せたこと。
そして。
「……満足」
って言った気がする。
僕の顔が一瞬で赤くなる。
「うそでしょ……」
両手で顔を覆う。
(僕なにしてるの)
その時。
キッチンから声がする。
「起きた?」
涼ちゃんだ。
僕は固まる。
ゆっくり顔を上げると
涼ちゃんがコーヒーを持って立っていた。
いつもの落ち着いた表情。
でも、少しだけ笑っている。
「おはよう」
僕はぎこちなく言う。
「……おはよ」
涼ちゃんはソファの横に座る。
そして、さりげなく聞く。
「覚えてる?」
その一言で、僕の心臓がまた跳ねる。
「……なにを」
わかっている。
でも聞いてしまう。
涼ちゃんは少しだけ首を傾げる。
「昨日のこと」
静かに言う。
「ずっと甘えてた」
僕は一瞬でフリーズした。
「……」
涼ちゃんが追撃する。
「僕の肩にくっついて」
「……」
「若井を呼んで」
「……っ、」
「満足って言ってた」
「……ッ///」
僕はその場でソファに顔を埋めた。
「ッ……やだ、」
声が小さい。
涼ちゃんが笑う。
「可愛かったよ」
「……っやだ、」
「ほんと」
「ッ、、やだぁ、」
耳まで赤い。
その時。
後ろから足音がする。
若井だ。
髪は少し寝癖がついていて
まだ眠そうな顔をしている。
「起きたか」
低い声。
僕は顔を上げられない。
涼ちゃんが楽しそうに言う。
「元貴、昨日のこと思い出したみたい」
若井の目が細くなる。
「へえ」
ゆっくり近づく。
ソファの背もたれに手を置く。
僕の逃げ道はない。
「覚えてる?」
同じ質問。
僕は小さく答える。
「……ちょっと」
若井が笑う。
「全部じゃないんだ」
涼ちゃんが言う。
「多分都合いいところだけ忘れてる」
僕はソファから顔を上げる。
「……忘れてないよ」
でも声が弱い。
若井が少し屈んで、僕の顔を覗く。
「じゃあ言ってみて」
「……」
言えない。
僕は視線を逸らす。
若井がくすっと笑う。
「昨日さ」
少し低い声で言う。
「俺の肩に額くっつけて」
僕の顔がまた赤くなる。
「……」
「寂しかったって言ってた」
僕の胸が少しだけきゅっとなる。
それは覚えている。
でも。
そのあと。
若井が続ける。
「2人いると安心するって」
その言葉に。
僕は少しだけ静かになる。
恥ずかしい。
でも、 それは本当の気持ちだった。
涼ちゃんが優しく言う。
「嬉しかったよ」
若井も頷く。
「俺も」
僕はゆっくり顔を上げる。
2人とも、優しい顔をしている。
からかわれてはいるけど、嫌な感じじゃない。
むしろ——
嬉しそう。
僕は小さく言う。
「……忘れて」
涼ちゃんが笑う。
「無理」
若井も言う。
「絶対忘れない」
僕はソファに沈む。
「んもぅ……2人ともやだ、っ」
でも。
その声は少しだけ笑っていた。