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私の名前はフェルーシア。フェルーシア=マンダイン。栄えあるロザリア帝国大貴族マンダイン公爵の一人娘ですわ。生まれながらに特別な存在であることは言うまでもありませんわね。
お父様は残念ながら優秀とは言えない分類の方ですが、私への愛情に偽りはありません。幼い頃から深い愛を授けてくださいましたし、私もそんなお父様に報いたくて勉学を中心に自分を磨くことに手を抜くことはありませんでした。
幼い頃には神童と持て囃されて、マンダイン公爵家を継ぐ者として順風満帆でした。八歳になるまでは。そう、八歳の誕生日に待望の男児が、つまり弟が生まれたのです。
貴族社会は男性優位。何の努力もなく、ただ男子に生まれただけで無条件に跡継ぎとなり、私は政争の駒として政略結婚に使われることなることは必然。そんなこと、許される筈もありませんわ。
マンダイン公爵家から来た妻と当主、どちらがより大きな権力を持つことになるか。議論の余地すらありませんわ。
私は八歳にして弟に強い憎しみを覚えて……始末しましたわ。公的には病死と言うことになっていますが、邪魔でしたので消しました。
ついでに、男児を産めない自分の不甲斐なさを娘である私に当たり散らしていたお母様にもご退場願いましたの。
八歳の小娘がどうやったのかって?権力とは上手く使えば何でも出来るのですよ。お薬を用意してくれた専属のお医者様には感謝していますわ。十歳になる頃に消えていただきましたが。
今回痛感したのは、女である私の立場は不安定なものだと言うこと。お父様が再婚されたり養子を迎える可能性がある以上、私の立場を磐石なものとするためには誰も逆らえない絶対的な権力と権威を手に入れなければなりません。
以後私は自身の立場を守るためより強い権力を求めるようになりました。幼いながらもお父様の執務室へお邪魔して積極的に政に関わり、学び始めたのもこの頃ですわね。
マンダイン公爵家にとって無くてはならない存在となれば、政争の駒として使われることもありませんもの。
さて、最大の敵である弟を消してお母様も消えた。お父様は高齢ですし、今のところ再婚の話もない。ようやく平穏を取り戻せました。
マンダイン公爵家の令嬢として誰もが私に媚びへつらう姿は滑稽でいて心地よくもありました。まだまだ、まだまだたくさんの権力を手に入れる。ゆくゆくは帝国そのものを。
そう考えていた九歳のある日、あの女と出会いましたの。シャーリィ=アーキハクト。政敵である西部閥を率いるレンゲン公爵家の懐刀、アーキハクト伯爵家の令嬢です。
始まりは些細なものでしたわね。当時開かれていた皇帝陛下主催のパーティーで、明らかに孤立した少女を見つけたのです。
燃えるような紅い髪、幼さを全面に出しながらもどこか鋭さを感じさせた少女。アーキハクト伯爵家の次女レイミ=アーキハクト、当時確か七歳。
貴族令嬢は基本的に十二歳からパーティーなど公の場に参加することになりますが、少しでも早く社交の場に慣れさせるのと顔を覚えてもらうためにそれより早く参加させるのも珍しくありません。私だって当時九歳ですもの。
もちろん、他に比べて早熟していることが大前提ですが。
明らかに孤立している政敵の令嬢を放置する理由などありませんわね。取り巻きの令嬢達を使って難癖をつけさせて糾弾し、頃合いを見て仲裁して私の寛大さをアピールしようと考えました。
まあ、別に珍しいことでもありません。社交界ではありふれた、だからこそ抗うのが難しい手ですわ。
案の定レイミ嬢は慣れていないらしく明らかに困惑して対応に苦慮しています。ここで失態を犯せばそれはそのままアーキハクト伯爵家の失態となり、ひいてはレンゲン公爵家の失態となります。
取り敢えず泣くまで詰めるように指示を出そうとしたその時、あの女が現れたのです。
金の髪を持ち、それでいて社交の場に相応しくない無表情の少女。アーキハクト伯爵家の長女、シャーリィ=アーキハクト。
シャーリィは取り巻き達の難癖に片っ端から反論、九歳とは思えぬ迫力もあって取り巻きの令嬢達も黙らされる始末。全く不甲斐ない。仕方無いか。
不利な状況を長引かせる愚を犯すつもりもありませんし、直ぐに仲裁には入り名乗りました。マンダイン公爵家の令嬢、これまでそう名乗れば誰もが態度を一変させて平伏したり媚びへつらうのが当たり前でしたが、シャーリィは違う。
無表情のままで。
「狐ですか」
私を狐と称したのです。これだけならば逆に好感を持てたかもしれません。他人を化かすのは好きですし、初対面でそれを見抜いたのですから。その辺りの凡人とは違い、或いは友人になれたかもしれませんわね?
次の言葉がなければ。
「哀れですね」
この女は、私を哀れんだのです。初対面であるにも関わらず私の本質に気づきながらも哀れんだ。この時感じた屈辱は忘れられませんわっ!
そして同時に感じたのが、この女を成長させてはいけないと言うこと。間違いなく異質な存在となり、成長させてはマンダイン公爵家にとって無視できない脅威になる。
個人的な私怨はもちろん、将来的に脅威となり得る存在を早い段階から始末しておくことは理に叶っています。ならば、実行あるのみ。
所詮九歳の小娘に過ぎない私には経験が圧倒的に足りない。足りないならば知識で補うまで。史書を紐解き、数多の策略、謀略を学び目的に合わせて修正。
お父様の全面的な協力もあり半年間の準備を経て冬にアーキハクト伯爵家を滅亡させることに成功しました。
もちろん帝室にも手を回していますし、アーキハクト伯爵家の衛兵長の内応もあり事件は迷宮入り。貴族史に残る惨劇となりましたが、レンゲン公爵家の弱体化を誘発して我がマンダイン公爵家が優位に立ちました。
その結果は、私と第二皇子殿下であるナインハルト様の婚約。いよいよ帝国を手中にする日が目前に迫り、まさに順風満帆ですわ。
邪魔な皇帝についての策も順調。
そんな矢先に。
「シャーロット=レンゲンです」
私の目の前にあの女が、シャーリィ=アーキハクトが現れたのです。偽名を使おうと、忘れる筈がありませんわっ!
シェルドハーフェンで生きているとの情報はありましたが、当時は裏社会でひっそりと生きるしかない彼女を嗤ったものですが……この女、返り咲くつもりみたいね。
……上等ですわ。今度こそ叩き潰してあげる。慈悲を掛けてやったのに私の前に現れたのだから、覚悟することね。