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エピローグ
夏が終わって、少しずつ風が冷たくなっていく頃。
あかりは、新しいノートの1ページ目をゆっくりと開いた。
そこには、たった一つの言葉だけが書かれていた。
「生きてみたいこと」
千早と書いた「死ぬまでにやることリスト」は、確かに終わった。
でもそれは、「生きるためにやることリスト」の始まりだったんだと思う。
あかりは、まだ何も書き込んでいないページを見つめながら、ふっと息をついた。
このページには、
たとえば「千早が好きだったカフェに行くこと」や
「新しい友達と出かけること」、
「ひとり旅をしてみること」なんかを書いていこうと思っている。
すぐには書けないかもしれない。
でも、少しずつでいい。
そうして生まれる一つひとつの”やってみたい”が、きっといつか、千早にちゃんと届く気がする。
ノートを閉じた瞬間、風がふわりとカーテンを揺らした。
その音はどこかで聞いたことがあるような、小さな鈴の音だった。
——あの日見た花火の音も、
——千早の笑い声も、
——全部、今も胸の中にちゃんとある。
だから、大丈夫。
今日を生きてみよう。
小さくてもいい、自分だけの光で。
「ねぇ千早、わたし、ちゃんと前を向くね」
そう心でつぶやいて、あかりはノートをバッグにしまった。