蒼さんはそうだな……と呟いた後
「ごめん。忘れて?勢いで言っちゃったし……。あの時は俺もどうかしてた。気にしなくて良いよ」
えっ、どうしよう。
そんなこと言われると、余計気になってしまう。
けど、詮索して蒼さんをまた困らせてもダメだよね。
「わかりました。私にできることだったら言ってくださいね?」
「ありがとう」
「蒼さん、今日は早く寝ましょう。疲れてるだろうし……。眠れなくても、身体を横にしているだけで違いますよ?」
私はソファーに座っている蒼さんを引っ張り、寝室へ連れて行こうとした。
「ははっ。桜ってたまにお母さんみたいになる時あるよな?」
嫌がらず、一緒に寝室へ入ってくれる蒼さん。
「蒼さんがベッドに横になったら、私は出て行くので。それまで見守ります」
私はベッドの隅に座り、トントンとベッドを叩き寝て下さいと伝えた。
その様子を見た蒼さんは――。
「桜。そんなことされたら……」
蒼さんはベッドの端に腰掛けている私を軽々と抱えた。
「ああっ!ええっ!!うわっ!!私、重いですよ?下ろしてください!ごめんなさい。調子に乗りましたぁ!」
お姫様だっこになど慣れていない私は、どうして良いのかわからずとりあえず暴れないようにして、謝った。
「いや、調子に乗ったとは思っていないんだけど……」
蒼さんは枕の上に私の頭が当たるよう、優しく下ろしてくれた。
でも――。
「蒼さん!?」
私の上に体重をかけないように馬乗りになっている。
「あああああっ。あのっ!」
必然的に視線が合う。
綺麗な顔立ちに思わず顔が紅潮してしまう。
「寝室に誘ってくれるとか……。あんな風に可愛いことされると俺も一応、男だから……。ちょっと前から思ってたんだけど、桜って俺以外の男にもそういうことするの?」
蒼さん以外に!?
そんなことするわけない。
「蒼さん以外にするわけないじゃないですかっ!本当にごめんなさい。調子に乗りました」
「そっか。なら安心。桜、ガードが緩すぎ。他の男だったら襲われてるぞ?」
そう言って彼は私の上に跨るのを止め、ベッドの隅に座る。
私はドキドキが止まらなくて天井を見上げていた。
「ごめんなさい。私なんかモテませんし、それに、男性でこんなにお話できたり信頼しているのは蒼さんだけだから……」
まだバクバク心臓がうるさい。
「男なんて、危ない奴がたくさんいるんだから気を付けろよ?俺のこと、信用してくれてるのは嬉しいけど」
「はい」
「桜、どうした?」
私は一向に動けず、ベッドの上で横になっている。
「すみません。蒼さんの綺麗な顔があんなに近くにあって、ドキドキしちゃって。刺激が強すぎて。腰が抜けるじゃないですけど、動けなくなっちゃいました。もう少し落ち着いたら退きますので……。お待ちください」
一生懸命深呼吸をしようとしている私を見て
「ははっ」と彼は笑い
「本当に面白い子だな」
ずっと笑っている。
蒼さんが笑ってくれている。良かった。
「桜。ごめん。やっぱり気が変わった。さっきの続き、我慢するって言ったけど……。そんな桜見てたら我慢できなくなった」
「へっ……?」
何をされるんだろうと目をパチパチしていたら、蒼さんが私の隣に横になり、ベッドの上で抱きしめられる。
「……!?蒼さん?」
一旦落ち着きかけた心臓の音も、またうるさくなった。
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