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「ほんっとそう! 注文は多いし、顔怖いし……中々OK出してくれないし……マジで鬼だと思う!」
「ひ、ひぇえっ、マジっすか!? じゃあ俺、扱かれるんじゃ……ッ」
ナギの言葉に銀次の顔色がみるみる青ざめる。それをオロオロと見守る雪之丞の姿に、蓮は思わず苦笑を漏らした。
「ちょ、ちょっとナギ君! そんなこと言ったら……っ」
「――誰が、鬼だって?」
「ッ!?」
地を這うような低い声が響き、場の空気が一気に凍り付く。
その場に居合わせた全員がビクリと身体を強張らせ、油の切れたブリキ人形のようにゆっくりと声のした方へ顔を向けた。
そこには、今しがた撮影を終えたばかりの凛の姿があった。
「ヒッ、り、凛さん……っ」
顔を真っ青にしたナギが助けを求めるように蓮の後ろへ隠れ、その隣の美月はジワジワと冷や汗を滲ませ、頬を引きつらせながらも笑みを浮かべた。
「あ、あのね……御堂さん? アタシたちは別に、深い意味があって言ったんじゃ……ね? ナギ君!」
「そ、そうそう! 特に意味は無かったんだ……っ!」
「ほう? 深い意味は無い……のに、人を鬼呼ばわりするとはいい度胸だ。二人とも、どうやら体力が有り余っているみたいだな?」
ピキリとこめかみに青筋を浮かべつつ、凛はにっこりと――しかし恐ろしい笑みを浮かべる。
その様子に美月とナギの表情はみるみるうちに真っ青になり、二人で顔を見合わせた。
「ご、ごめんなさいっ!」
「ちょっ、筋トレメニュー増やすのは勘弁してっ!」
悲鳴に近い叫びが室内にこだまし、蓮たちは困ったように眉尻を下げて乾いた笑みを零す。
「り、凛さんって……怖いんですね。止めなくてもいいんですか?」
銀次が恐る恐る問いかけると、弓弦は苦笑して肩を竦めた。
「ハハッ。まぁ、あれは姉さん達の自業自得ですから」
雪之丞に至っては、とばっちりだけは避けたいとばかりに部屋の隅へ移動し、背景と同化するように黙々と次のシーンの台本に目を通している。
「お兄さんもなんか言ってよぉ!」
不意にナギに話を振られ、蓮は気まずそうに頬を掻いた。
「……まぁまぁ、兄さん。二人とも頑張ってるんだし、許してあげてよ。ね?」
「……フン。まぁ、いい。次に可笑しなことを彼に吹き込んだら容赦はしないからな」
凛はそう言って蓮を一瞥すると、それ以上多くは語らず、自分の荷物からタオルを取り出して軽く汗を拭い、何事もなかったかのようにスタジオを出て行った。
「も~、凛さん怖すぎだよ」
風呂上がりの濡れた髪のまま、ナギはソファに座る蓮の隣へドカリと腰を下ろし、そのまま肩に寄りかかってきた。
ふわりとシャンプーの香りが鼻孔をくすぐり、思わずドキリとする。
「ちゃんと髪乾かさないとダメだって、いつも言ってるだろ?」
「んー、めんどい。お兄さん乾かしてよ」
「……ったく、仕方ないなぁ」
甘え上手な年下の恋人に小さく笑い、蓮はナギの髪にタオルを当てて優しく水気を拭き取っていく。
柔らかな髪は絹糸のように滑らかで、指に吸いつくような艶やかさを持っていた。自分の髪とはまるで違うその感触に、自然と目を細めてしまう。
「ナギって……髪まで綺麗なんだな」
「フハッ、何それ」
くすぐったそうに笑ったナギは、蓮の手を掴んで頬に押し当てる。
「お兄さんの手の方が綺麗だよ。努力してる人の手って、なんか特別な感じがして好き……」
甘えるように頬を擦り寄せる姿は、まるで懐いた子猫のよう。
自分の前でだけ見せる無防備さに鼓動が早まる。
「ナギ……」
その愛おしさに抗えず、旋毛へ口づけを落とそうとした瞬間――。
「あ! そう言えばさ……お兄さん、早く凛さんと仲直りしなよ」
唇がぴたりと止まる。急に改まった調子で言われ、蓮は気まずそうに身を引いた。
「俺にくらい、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
「……っ、それは……」
顔を上げて真っ直ぐに問われ、蓮は言葉を詰まらせる。
だが、ナギの瞳は冗談では済ませないと告げていた。
胴を跨いだまま、ナギは煽るように腰を蓮の股間へ押し付ける。
わざとらしい動きに、蓮は思わずゴクリと喉を鳴らした。
「あはっ……硬くなってきた。お兄さんって、やっぱりエッチだよね」
「ちょっ、ナギ……っ!」
布越しにぐりぐりと押し当てられ、下半身に熱が集まっていく。
行為を思わせるいやらしい腰の動きに、昂りが抑えきれず、股間が脈打つのが自分でもわかる。
「ねぇ、すごいよ。触ってないのに……どんどん硬くなってく」
「……っ」
ナギは愉しげに目を細め、さらに腰をゆっくり円を描くように動かした。
熱と欲望を焚きつけられ、否応なく意識が下へと引きずられていく。
「ね、お兄さん。我慢できるの?」
甘い囁きが耳元をくすぐり、蓮は息を呑んだ。
「いやらしいなぁ……こんなに硬くしちゃって」
ナギが甘く囁き、熱い吐息を蓮の耳にかける。
「お兄さんの、きっと挿れたら……凄く気持ちよさそう……。俺のココに早く突いて……奥まで欲しい」
「な、ナ……ギ……っ」
腰に響くような低い声と淫らな揺さぶりが、蓮の理性を容赦なく削っていく。
はぁ、と色っぽい吐息を零しながら腰をくねらせる姿は、ただの挑発では済まされないほど淫猥で――蓮の我慢をあっさり吹き飛ばしそうだった。
「でも……ダメ」
ナギが一転、意地悪く笑みを浮かべる。
「お兄さん、シたくないみたいだし。――喧嘩の理由、ちゃんと話してくれたら……少しくらいは、シてあげてもいいよ?」
「~~っ……!」
布越しに尻たぶで強く擦られ、蓮の息が詰まる。
一瞬、獲物を狙うように見せるその目つきに背筋が震えた。
これは“お仕置き”だ――そう告げるような年下の挑発に、蓮は降参だとばかりに苦笑するしかなかった。
「……わかったよ。話す。……でも、その……怒らないか?」
「俺が怒るようなこと?」
ナギが目を細め、期待と不安をないまぜにした表情で見下ろす。
「え、まさか……凛さんとエッ――」
「大丈夫! それはまだ無いから!」
「……まだ?」
一瞬でナギの顔色が変わる。
「ってことは……いつかそうなる可能性があるってこと?」
「……僕は無理だ。でも、多分兄さんは……」
蓮は一度、強く目を伏せ、唇を噛み締めた。
「兄さんは……そういう対象として、僕を見てる気がする」
――そう口にしてしまうと、胸の奥に沈めていた重苦しさが一気に現実味を帯びて襲いかかる。