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天秤
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いっちごん
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第一章 滅争試行編 第1話「荒ぶる天世」
「グッ……アアアア……」
ポタ……ポタ…… ゴホッ…ゴホッ…………。
血の雨が戦場に散らばる。
名前の無い匿名神──俺は赤に染まる中、
致命傷を負ったまま立っていた。
銃声。爆発。悲鳴。
天界とは思えない地獄の音が、四方八方から響く。
「俺はこんなクソみてえな戦争なんか終わらせてやるよ」
「外来神、お前は世界平和を望むのか?」
「平和?まあそれも望んではいるけど……でも……」
俺は血を拭い、振り返りもせずに言う。
「俺は恋愛がしたいんだ」
軽口ではない、本気の声だった。
「俺は神々が自由に恋愛できる世界を作りたいんだ」
「…つまりは平和か?」
俺は堂々と首を振る。
「いや、これは俺の欲のままの願い──『私利私欲』だ」
フワァ……フワァ……。
今にも消えそうな意識と、ふらつく身体。
赤く濡れた顔の中に、にっこりとした楽しそうな笑顔があった。
「こやつ、狂っておるな……」
「違う……」
弱々しい手で俺は刃を握る。
「命の無駄で愛のない、こんな戦争をぶっ壊したいだけだ!
あと恋叶える」
その何とも言えない言葉に、周囲は固まることしかできなかった。
俺は震えながらも剣を大きく構えた。
そして思いっきり飛び──
「星空剣技――」
そして場に倒れこむ……のだ。
――遡ること数時間前。
昨晩の嵐は晴れ、決して優しくない眩しい日光が世を裁こうとしていた。
天使村の端の端にある小さな少女の家で、俺と少女は徹夜してテレビの前に座っていた。
眠くはなかった。
「本当に戦争が起きるなんて思ってなかったよ……」
俺は少女の顔を横から覗き込みながら腕を組む。
「…この地球(ほし)なら、平和でいられると思ったのに……俺の生涯には争いしかないのかよ」
少女が俺の横顔を覗き込んだ。
目蓋が痙攣しているのを発見した。
「疲れてるの……?」
「疲れていても進まないといけないのが現在社会だよ――」
返事になっているようでなっていない。
濁しきれていない疲れが少女の空気を重くする。
俺自身が疲労を殺しているからだ。
次の瞬間、部屋の空気が反転した。
目の前のテレビが勝手についた。
触ってもいないのにも関わらず、中継が映る。
少女の肩が、いや全身が跳ねた。
画面が血に染まり、ノイズがバリバリ鳴っている。
俺は反射的に少女を机の下に入れた。
「頭を隠せ!」
「ねぇ、一体…!?」
「開戦の鼓動が来た!」
テレビの赤が真ん中から避ける。
赤から今度は白へと変わっていく。
そして画面が完全な白に代わるとき──
空が割れた。
空は本来割れるなんて物理的に絶対に有り得ない。
それなのに天界全体に空から青い欠片が降り注いだ。
欠片は木の屋根を一撃で破壊した。
ガラス片のように降り注ぐ空から、俺は少女を庇う。
少女は目を潰すほどに瞑った。
「痛っっっっっ!」
欠片が体に当たるたびに火傷、痺れ、刺傷。
死に物狂いでやっとこらえながら庇い続ける。
外から悲鳴や泣き声が四面八方聞こえる。
そんな天災がおよそ五分ほど続いた。
遂に欠片の雨が止んだ。
悲鳴も、泣き声も全てが収まった。
沈静を感じた少女はゆっくりと目を開いた。
恐る恐ると、止まったことを信じて──
そうして開けた眼の中に一番最初に見えたのは、
口や背中から血を流す俺の姿だった。
「ナ…ナ……」
少女が今まで生きてきた中で見たこともない猟奇的な光景に、開いた口が塞がらなかった。
涙も出せない。
俺の背中には千よりも多い欠片が深く突き刺さっていた。
「大丈夫?怖かったね」
優しく寄り添う俺に対し、引っ込んでいた涙が息を吹き返した。
少女の額に血、俺の腕に涙が交差し合う。
「血……死んじゃう」
「大丈夫だよ、それよりも……」
すると、俺は立ち上がった。
ふらついてもなく、まるで何事もなかったかのように平然と。
「なんで立てるの……?まだ欠片が……」
「話は後、まずは外に出て状況を確認しよう」
「でも……痛いでしょ……?」
俺は微笑んだ。
「痛いよ。でもこんなのすぐに治るよ」
少女は俺の手を掴み、二人は外へと駆け出した。
扉を開けた瞬間──
そこは地獄よりも地獄だった。
空全体が本当にガラスのように大きく割れていた。
それだけではまだよかった。
地面の天使達や神々が皆、青い欠片に串刺しにされていた。
胸を貫かれた者。頭を割られた者。
翼をもがれた者。
赤い液が地面に落ち、赤い画面のように広がり、
地面を染めていく。
「これは流石に想定外だな」
少女が泣き顔でこちらを見る。
「これが…戦争?」
「いや違う……」
その時だった。
空の裂け目から、純白の光が漏れ始めた。
「おいおい、なんだあれ……?」
光は瞬く間に天界全体へ広がっていく。
数十キロメートル離れていても感じる暖かさ。
日光でもない純白が全ての空に満ちた。
眩しいと優しいが合わさるようにどんどん明るくなっていく。
「綺麗……」
ライトが呟いた直後、低く重い声が光の中から降りた。
「災に奪われし生よ。壱へ再生申す」
バチッ……バチバチッ……!
そのまま光は世界を覆い込み、誰一人拒むことなく平等に照らした。
隣の家から一人の男性天使が出てくる。
「あの光は…間違いなく『ゼウス様』の大規模ヒーリングだ」
男性天使は空を見上げ、嬉しそうに声を上げる。
「喜べ! 救われるぞ!」
男性の眼に違和感を感じる。
口は笑っている……はずなのに。
眼は笑ってはいないように思える。
……その違和感を、俺は見逃さなかった。
「名無し君の背中、綺麗になってるよ!」
ライトが驚いた声で言った。
「本当に?」
「私もいまいち信じ切れてはないけど……でも事実としてひとかけらも刺さってないよ。痛くない?」
確かにさっきまでの激痛が、今は最初からなかったかのように消えている。
「…もう大丈夫だから、安心して」
自分でそう言ったものの、胸に引っかかるものが複数あった。
呆然と考えていた俺の耳に
「○○が生き返った!」
「ゼウス様、恩を着ます!」
などの歓喜の声が、嫌でも強引に入ってくる。
頭を少し下げた。
重傷・死を迎えたはずの天使たちが、何事もなかったかのような姿で家族や友人、恋人と。
または独りで泣いて喜ぶ姿が目に映る。
胸の奥に引っかかった異物が、俺に寒気を浴びせた。
(怪我が一瞬で治ることはともかく、命まで簡単に生き返るのはおかしい……)
その瞬間だった。
──ドガァァァン!
北の方角で、空気を吹き飛ばすレベルの破裂が響いた。
歓喜の声が一斉に止まる。
天使たちの笑顔が固まる。
和の神々が住む、最も地上に近い「葦原」という場所で
領土を守っていた結界「堺守」が突如として崩れてしまった。
「一体なにが起こっているというのですか!?」
「堺守がこわれるなんて絶対に有り得ない。だってあの結界はゼウス様の……」
「話してる場合ではない!このままでは海外に私たちの領土が狙われてしまうぞ」
葦原だけではなかった。
館や宮殿が有名な文明の栄えた大国「アースガルズ」でも、同じく結界の崩壊が起こっていた。
「おいおい、これどういうことだよ……」
「ゼウス様が昨晩、私に言った通りの未来になりましたか」
「オーディン様……見てください。これは明らかに異常事態ですよ!」
「…知ってる。ゼウス様が『明日、天界全体の領土を守っていた結界が全て壊れ、天界大戦が起こる』とおっしゃったから」
「……やはり、オーディン様はなんでもお見通しなのですね」
「トールよ、その言葉は不安から来ているのではないか?」
「……はい」
「私はトールのことを信じている。強き心を持つトールを」
「え……?」
「…さて、我がアースガルズの皆に継ぐ。
結界が崩壊した今、次は恐らく『龍神の国』が攻めてくることだろう。
龍神は下手をすれば世界を改変するほどの脅威となる。
しっかりと打ち向かえる準備を!」
「応!」
掛け声と共に、館内から大軍勢が一瞬にして戦場へ集結した。
一人一人が猛将級に強く、身長が四千メートルある巨人をたった五人程度で秒殺するほどの実力を誇る戦士。
その数、約「一万人」。
アースガルズの空が、一瞬だけ“静か”になった。
風が止まり、雷鳴すら息を潜める。
その静寂を破ったのは、三体龍の咆哮だった。
先頭を飛行するのは赤い鱗を持つ「赤龍」。
その後ろには「緑龍」、そして「青龍」が続いている。
赤龍がオーディンに向かい、口を開けた。
「アースガルズ。
龍神国の“均衡”を守るため、まずは貴様らと闘わねばならぬ」
その言葉は、まるで戦場そのものに“火種”を落としたかのように響いた。
オーディンや戦士達は答えない。
どちらも攻撃することは可能。
そのはずが、互いに見合ったまま動く気配も、話す気配も一切ない。
葦原、アースガルズ、龍神国。
それぞれの領土を仕切る結界が崩れ落ちるという前代未聞の異常事態は突如として起きた。
──全ての“破裂音”だけが、天使村にも届いていたのだった。
皆、息を潜めて聞いていた。
天使村の空気は、まるで時間そのものが止まったかのように静まり返っていた。
誰も話さない。
誰も動かない。
遠くの戦場から届く“破裂音だけ”が、この村の静寂をわずかに震わせている。
「今日は本当に………何が、起きてるの?」
抑揚のない声がライトちゃんから発せられた。
状況を言葉にできない俺の浅学が嫌い、大っ嫌い。
とか思っても今は変えられない。
手を右に伸ばし、ライトの背中を鼓動のリズムで叩いた。
「分からないよね?大丈夫だ……っ!!」
振り向いた後ろに…………誰もいなかった。
さっきまでいたはずの天使達が、ライトちゃん以外一人も。
(この感覚、昨日の青龍が失踪した時と同じだ……)
その時、ふと地面に何か落ちているのが目に入った。
ゆっくりと近づき、そっと手に取ったのは赤紙。
中には黒文字でこう書かれていた。
「召集令状 中級天使ラゼル」
全てを悟った。
今、天界では何が起きてるかを。
「そうか、もう……」
赤紙を強く握りしめ、俺はもう一度空を見上げた。
「ライト、もう……戦争は始まっている」
空は再び曇り始める。
「……」
いつもなら何かしら言ってくれたライトの声がなく、沈黙していた。
バァアアアアン!
沈黙を遠くの爆発音が飲み込んだ。
「家に戻ろう」
俺はライトちゃんの背中を支えて家の方へ歩き出した。
ライトの重い足取りに合わせながら………。
愛悲の昨夜はとっくに去っている。
いや、明けてしまったが正解だろう。
もう戻れない、帰れない。
悲しむことができた愛のある夜にはな。
コメント
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おお、これ第7話か…!いやもう最初っからぶっ飛んでるな。主人公が「恋愛したい」って戦場で宣言するところ、狂ってるけどカッコよくて笑ったわ。あとゼウスの大規模ヒーリングで一瞬で傷が治る不気味さ、絶対なんか裏があるよな…。この不穏な空気感、めちゃくちゃ好みだわ🔥 次が気になりすぎる!CLUSTARさん、この展開どう転ぶんだよ…続き待ってる!