「あー…この呪霊も駄目か。」
葛葉はがっくりとうなだれた。
呪霊で描いた魔方陣を囲む五人。
葛葉と叶がこちらの世界に来てから数日経った。
二人とも呪霊を見ることができ、葛葉の魔力は呪霊に効くと分かった。
それから何体かの呪霊を魔方陣を描くために使った。
しかし、二人が元の世界に帰れる兆しは全く見えなかった。
二人をこの世界に飛ばした元凶であるびでび・でびるから数日前に再び連絡があった。
呪霊はレベルが高いものではなく、世界と世界を繋げるのに相性がいい呪霊じゃないといけないらしい。
「大丈夫だよ、葛葉。五条さんも呪霊を探してくれているし、焦らずやろう。」
うなだれる葛葉の背中を叶は叩く。
叶の言葉に葛葉は頷くが、小さくため息をついている。
その夜、葛葉は高専の校舎の屋根の上に座っていた。
空には満月が浮かんでいて、辺りは明るい。
葛葉がぼーっと空を見ていると、誰かが屋根に登ってきた。
「なにしてるんですか。葛葉さん。」
屋根に登ってきたのは伏黒だった。
「おー、伏黒さんじゃん。え、生徒って夜に出歩いていいの?」
葛葉は伏黒の方を向いた。
「多分、出歩いちゃ駄目だと思いますけど。扉が開く音がしたので、気になって。」
伏黒は立ったまま、返事をする。
そのあとに葛葉の隣まで行き、座った。
「なるほどぉ。俺は、たまに月を見たくなるんだよ。今日満月だし。」
そう言いながら葛葉は月を見上げる。
月明かりに照らされて葛葉の表情はよく見える。
「葛葉さんは早く元の世界に帰りたいんですか?」
伏黒は葛葉に質問した。
その質問に葛葉はキョトンとした。
「そりゃ、そーっしょ。俺にもやらないといけないことがあるし、それにお仲間も向こうにいますしね。」
葛葉は笑いながら答えた。
「ま、そーですよね。葛葉さんに比べて叶さんが、なんかゆったりしてるように見えたので。」
伏黒が続けて話すと葛葉は「確かに」と笑った。
「まあ、早く帰りたい理由はたくさんあるけど。なによりも…。」
そこまで言って葛葉は黙ってしまった。
「…………。なによりも、何ですか?」
伏黒は聞いた。
葛葉は月を見上げながら答えた。
「叶は、呪力とか持ってないだろ。でも、なぜか呪霊はいつも叶を狙う。」
初めに会った呪霊を含め今まで会った呪霊は、全て叶を狙っていた。
呪力を持たない叶は、いつも四人に守られてばかりで申し訳ない顔をしている。
「叶には寿命で死んでほしいんだよ。」
葛葉は少し微笑みながら言う。
「なるほど。確かに、別れって何回経験しても慣れないものですよね。」
伏黒はそう言って立ち、歩き出した。
伏黒の言葉に少し戸惑う葛葉。
「それじゃあ、俺はここで失礼します。おやすみなさい。」
伏黒はそう言いと屋根から降りた。
屋根の上に残された葛葉はポカンと口を開けていた。
「………そういえば、あいつらもこれから辛くなるんだよなぁ。」
葛葉は伏黒の言葉にどのような反応をするべきか迷ってしまった。
「伏黒さん達も大変だな。」
葛葉は立って、部屋に帰った。
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