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水平線が、濃く澄んだ青で縁どられていた。
まるで絵の具を溶かしたみたいな空と海。そこに浮かぶのは、風の止まった小さな無人島。
「……静かすぎるな」
ゾロは船の縁から目を細めた。背後ではウソップが「こええな、絶対なんか出るって!」と騒いでいる。
サンジは煙草に火をつけながら、岸辺の先に見える建物を見つめた。 ガラスの壁が陽を受けて、ぼんやりと光っている。
「……水族館だな。けど、随分と古い」
「そんなとこ行くのか?」
「ああ。……なんとなく、気になっただけだ」
メリー号を降り、ふたりは歩き出す。
誰の気配も感じない、閉ざされた空間。そこには、時が止まったままの水槽たちが眠っていた。
海水の匂い。
ガラス越しの青い光。
そして、水の中を漂う影。
「……ここ、本当に誰も来てねェのか」
「おい剣士。お前、ビビってんのか?」
「はァ? お前こそ、声が裏返ってんぞ」
冗談みたいな軽口の中に、なぜか消えない微かなざわめきがあった。 まるで、自分でも知らない感情が、どこかでゆっくり揺れているような。
島に上陸したのは、夕暮れの終わり際だった。
空は青と橙の中間色に染まり、潮風はどこかひんやりと、遠くの夏を連れてきたようだった。
小舟を降りた一行の足元には、古びた桟橋。木材は苔むし、ところどころ腐りかけている。
誰の足跡もない、沈黙に包まれた島だった。
その静寂の奥に、ひとつの建物があった。
薄明かりの中で見えたその施設は、かつて「オーシャンリウム」と呼ばれていた場所。
数年前に閉館したとされていた水族館は、今もまるで時間の檻の中で、眠るように佇んでいた。