国王の書斎で私たちはハンコを貰った。護衛依頼終了のサインと一緒に。けど…何か忘れてるんだよなぁ。
「あ,ベル。」
国王がボソッと言い放った。そうだ,護衛依頼と同時に契約魔探しも並行していたんだった。護衛依頼中の私たちの行動を思い出す。商店街でいっぱい買って,カフェで黒宝飲んで…魔族に出会って。
国王と私は目をあわせる。楽しんでましたね。はい。スカイのほうを見るとスカイは目をそらすし。そのベルさんがどうしていなくなったのかは謎だけど,依頼は終わったし?いいかな。
「いや,我の事を探しに来い。」
「どちら様?」
「あ,ベル。」
金色の瞳に漆黒の髪。そして何と言っても大きな黒い羽と角が特徴的だった。これは誰がどう見ても魔族だ。悪魔と魔族は違う。魔族は魔法に長けている人間に似ている種族で,悪魔は人の形をしていない。契約魔は悪魔だと思ったんだけど,まさか魔族だったなんて。
けど国王は魔族を見たとき,「はじめてみた。」って言ってなかったっけ?
「へぇ,良い女ではないか。我はベルフェゴール。」
「よ,よろしくお願いします(?)」
契約魔のベルさん(名前が長いから省略)と握手をする。手は私より大きくて驚いたが,それより驚いたのは手の綺麗さだった。悪魔って人間を無差別に殺したりする無慈悲な奴だと思ってたのに貴族の女の子たちよりもつるつるで爪も整えられていた。
「はっ,マジで?嘘だろ?あのベルフェゴールって契約魔にできるのか?」
「えっ,ベルフェゴールって?何それ。」
「何の話だ?」
スカイはマジマジと契約魔のベルさんを眺める。近づきすぎて従者さんたちに引きはがされてたけど。
ベルさんも思わず苦笑い。
「ベルフェゴールって,あの,怠惰を…」
「…おい小僧,何故それを知っておる。貴様,何者だ?」
ベルさんの顔がどんどん怖くなっていく。終わった。こんな強そうな魔物?契約魔倒せるわけないでしょ。あと一応これ国王の書斎だからね?一応言っておくけど。
国王が何も言わない以上…
「撤退!!!!」
急いでサイン入り依頼書をつかみ取り,書斎から出ようとした。…が,そんな事させてくれるはずもなく。
ベルさんの殺気が漂う。
「ベル。この方たちにもきっと,何かあるんだ。深く掘るんじゃない。」
国王の一言で一命をとりとめた。ありがとう,国王。
しかし,どういうことだろう。スカイが言うその…怠惰?をなんとかかんとか。まず怠惰って何よ。こんな時に頭を使わないといけないなんて…響きは良いから兵隊みたいなもの?もしかしてすっごく強い有名な兵士だったりして!そうなったらまず好印象を相手に与えないと。それで…
「…あの女は一体何を考えておるのだ。…はぁ,で,貴様何者か。」
「えっと…俺は,ただの人間です。物知りな,人間です…。」
おっと,いけないいけない。スカイが異世界人ってばれないようにしないと。どうなるかわからないからね。この国王もなんだかんだ言って何するかわからないから。スカイを捕まえて研究なんてしないでしょうね。そんなことしたら私,…私。
「まぁまぁ,ベル。この人たちは私の命を救ってくれた恩人だ。無礼な真似はしないように。」
「国王様,隣国からの招待状でございます。」
「ありがとう。」
平気な顔をして噂の『心を奪う笑顔』をして,ごめんね~と町の時とは大違いの態度を見せる。その態度はあの子供のようなものではなく,立派な男の顔であり態度であった。
「それじゃ,帰らせてもらうわね。」
「ふん…。」
本当に…今日はいろいろあったわね。一番驚いたのはあの契約魔だけれど。あの国王,何かあるわね。
斜陽が木々を照らしていた。もうこんな季節なんだなということを感じさせられる。あの太陽が尽きるころにはどうなってるんだろう。こんな争いだらけの世界が,幸せになる時がやってくるんだろうか。まぁ,私が生きている間はそんなことないでしょうね。
「スカイ,どこか食べに行きましょ。」
「ギルドに提出したらね。…。」
「ウェッジよ。」
「?」
「魔界が,そして人間界が,平和になる世界を作るためには,きっと。」
斜陽が辺りを一段と輝かせた。
to be continued→
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!