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スペクターは鎖を指へ絡めたまま、じっとノスフェラトゥを見下ろしていた。
赤い瞳。
愉しそうで、
優しくて、
底が見えない。
ノスフェラトゥは視線を逸らせない。
鎖の感触が、まだ喉へ残っている。
しゃら、と金具が揺れた。
その小さな音だけで、
胸の奥が熱くなる。
スペクターはくすりと笑った。
「そんな顔して」
「……どんな顔だ」
「もっと欲しいって顔」
「……ッ」
即座に否定できない。
悔しくて唇を噛む。
すると。
くい、と鎖が引かれた。
「……!」
不意打ちだった。
ノスフェラトゥの身体が前へ傾く。
次の瞬間。
スペクターの膝へ、半ば抱き込まれる形で座らされていた。
「っ、離……」
逃げようとする。
だが腰へ腕が回る。
鎖は短く巻き取られ、
距離が完全に塞がれる。
スペクターの体温が近い。
呼吸すら感じる距離。
ノスフェラトゥの耳がぺたりと伏せた。
「暴れない」
低い声。
命令というより、
言い聞かせるみたいな響き。
なのに身体は止まる。
スペクターは満足そうに微笑むと、鎖を軽く指先で揺らした。
しゃら……。
ノスフェラトゥの喉がひくりと動く。
「もう、これ好きになってるね」
「違う……」
「じゃあ外す?」
その一言に。
ノスフェラトゥの指先が反射的にスペクターの服を掴んだ。
沈黙。
スペクターの笑みが深くなる。
「……外されたくないんだ」
「……ッ」
図星だった。
ノスフェラトゥは顔を背ける。
だが、逃げない。
むしろ無意識に、
スペクターの胸元へ身体を預けてしまっている。
スペクターはそんな彼の髪へ指を通した。
後ろで結ばれた長い黒髪を解き、
ゆっくり撫でる。
「いい子」
その声だけで、
ノスフェラトゥの背筋がぞくりと震える。
スペクターは耳元へ顔を寄せた。
「ご褒美が欲しいなら」
甘い囁き。
「もっと上手に甘えて」
「……」
「今の君、まだ我慢してる」
図星だった。
ノスフェラトゥは、自分が何を欲しがっているのか理解してしまっている。
撫でられたい。
褒められたい。
鎖を引かれたい。
“許可”が欲しい。
それを認めるのが怖い。
スペクターは鎖を短く引く。
ノスフェラトゥの喉が上を向く。
「ほら」
指先が首輪をなぞる。
「欲しいなら、ちゃんと教えて」
「……ぅ」
呼吸が乱れる。
スペクターは急かさない。
ただ待っている。
ノスフェラトゥ自身の口から、
望みが零れるのを。
それが一番逃げられない。
やがて。
ノスフェラトゥは震える声で呟いた。
「……撫で、て」
小さい声。
消えそうなほど。
スペクターは嬉しそうに笑った。
「うん」
その瞬間。
優しく頭を撫でられる。
耳の付け根。
髪。
頬。
丁寧に、
甘やかすみたいに。
ノスフェラトゥの喉から、小さく震える息が漏れた。
「そう」
「上手に言えたね」
その褒め方が、
どうしようもなく甘い。
ノスフェラトゥは悔しそうに目を閉じながら、
結局、
スペクターの肩へ額を預けてしまった。
鎖が揺れる。
しゃらり。
その音がもう、
安心する音になり始めていた。