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午後2時。リセットの鐘が鳴り響き、全員の魂が元の肉体へと戻った。
放課後、夕焼けで真っ赤に染まる校舎裏。まことが恐る恐る向かうと、そこには泥水を洗い流し、いつもの冷徹で高貴な佇まいに戻った王太子ギルバート(本物)が、一人で腕を組んで待っていた。
「……来たか、渡辺まこと」
「殿下。昨日の泥水の件は、本当に不可抗力と言いますか、お嬢様を立てるための用務員としてのパフォーマンスでして――」
「言い訳は無用だ!」
ギルバートは一歩踏み出し、まことの胸ぐらを掴んだ。その瞳には、恐怖ではなく、狂おしいほどの情熱が宿っている。
「私は気づいてしまったのだ。お前が毎晩、夢の中で私を物置に押し込み、唇を奪う理由を。そして昨日、わざわざマリアの身体になった私を選び、泥水という名の洗礼で私を他のモブどもから守った理由をな……!」
「はい!? 守ってないです、普通にガチでぶっかけましたけど!?」
「照れるな! お前は、身分違いの私への恋心に苦しみ、あえて悪役を演じることで私に強い印象を植え付けようとしていたのだろう! 認めろ、お前が本当に欲しているのは、マリアでもエレノアでもない……この、私だということを!」
「違う、大いなる勘違いだ!!! 殿下、目を覚ましてください!!」
まことが必死に否定したその時、隣の茂みから「ガササッ!」と物凄い音がして、ドレス姿のエレノア(中身:本物の亜香里。今はシャッフル時間外なので、ただの放課後の会話)が飛び出してきた。
「ちょっと待ったあああ!! ギルバート殿下、あんた何私のまことに告白してんのよ!!」
「エレノア!? なぜお前がここに……いや、お前こそ私のまこととは何事だ!」
「あんたのまことじゃないわよ! まことは私の幼馴染で、っていうかあんたの性的指向がバグったのは全部昼間のシステムエラーのせいで――」
夕日の中、王太子と公爵令嬢が、一人の用務員の男を巡って「中身のバグ」のせいで盛大に口論を繰り広げるという、乙女ゲームの歴史上最も歪んだ三角関係が爆誕していた。
第十章:学園崩壊への序曲(生存フラグの斜め上の結末)
王太子ギルバートの脳内が完全に「まことへのトゥンク(ときめき)」で固定されたまま、物語は第一部完結へと向かう。
数日後、学園の中庭に全生徒が集められ、定期試験の優秀者発表が行われていた。
壇上に上がった王太子ギルバートは、全校生徒を前に、マイク(魔導具)を握りしめて堂々と宣言した。
「生徒諸君。そして我が婚約者、エレノア。私は本日、この場で真実の愛を見つけたことを報告する。私が真に守るべき、泥の中でも気高く輝く我が心の聖女は――そこにいる、施設管理職員の渡辺まことだ!!」
静まり返る全校生徒。
壇上を指差され、モップを持ったまま白目を剥くまこと。
客席の最前列で、「あーあ、完全に終わったわ、あの王子様……」と頭を抱えるエレノア(亜香里)。
そして、なぜか「ギルバート殿下が平民の男の人と……? でも、なんだか尊いですぅ……!」と、新たな属性(BL)に目覚めて鼻血を出しながら拝んでいるヒロインのマリア。
『――システムログ:主要キャラクター(ギルバート)の好感度が、ターゲット(渡辺まこと)に対して最大値を突破しました。生存フラグ、斜め上方向に完全固定。世界線の定着に成功しました』
頭の中に流れる、どこか投げやりなシステムのファンファーレ。
こうして、魂のライブシャッフルが生んだ大バグは、悪役令嬢でもヒロインでもなく、「王太子が下町の用務員にガチ恋する」という、前代未聞のハッピーエンド(?)を叩き出し、世界は滅亡の危機から奇跡的に救われたのである。
「おいまこと! 諦めてあの王子様と添い遂げなさいよ! 世界のためよ!」
「ふざけるな亜香里! 俺の平穏なセカンドライフを返しやがれ!!」
用務員のまことの絶叫が、今日もバグり散らかした異世界の青空に、虚しく響き渡るのだった。
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#悪役令嬢