テラーノベル
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その日、桃は「少し話そう」と言われて、
スタジオの奥の防音室に入った
照明は柔らかい。
椅子も、水も、ちゃんと用意されている。
――優しい。
でも、それが一番、怖かった。
水:「ここ、落ち着くやろ?」
水が扉を閉めながら言った。
カチリ
小さな音。
鍵だと気づいた瞬間、
桃の背中に冷たいものが走る。
桃:「……え?」
振り向いた時には、もう遅かった。
紫は扉の前に立ち、
赤は壁にもたれ、
水は笑っていて、
緑と黄は、桃のすぐ隣にいた。
逃げ道が、ない。
緑:「大丈夫だよ、桃桃」
緑が、ゆっくり腕を伸ばす。
抱きしめるでもなく、囲うだけ。
黄:「ここ、静かだね」
黄がふわっと笑う。
黄:「誰も来ないよ?」
その笑顔が、
いつもと同じなのに、目だけが違った。
桃:「……みんな?」
桃の声が、少し震える。
紫が、低く言った。
紫:「怖がらせるつもりはない」
赤:「嘘だろ」
赤が即座に返す。
赤:「怖がらせなきゃ、分かんねぇだろ」
桃の心臓が、強く脈打つ。
水は、いつもの調子で肩をすくめた。
水:「逃げられると思われる方が、困るんよ」
その瞬間、桃は気づく。
――全員の目が、同じだ。
期待と、焦りと、
逃がしたくないという感情が、
濁ったガラスみたいに張り付いている。
桃:「……俺、何かした?」
そう聞いた桃に、
紫はゆっくり首を振った。
紫:「したよ」
紫:「存在した」
空気が、重く落ちる。
紫:「桃が優しくて」
紫:「桃が一人で背負って」
紫:「桃がどこにも行きそうで」
言葉が、次々に重なっていく。
緑は、桃の手を取った。
指先は冷たい。
緑:「桃桃……ここにいれば」
緑:「外で、誰にも取られない……」
黄は、そっと反対側の袖を掴む。
黄:「うわぁ……」
黄:「桃桃の目、揺れてる……かわいい……♡」
桃の喉が、ひくりと鳴った。
桃:「……こ、これ、閉じ込めだよね怯」
静かに言うと、
全員が一瞬、黙った。
そして。
紫が、はっきり言った。
紫:「そうだよ」
否定しない。
言い訳もしない。
紫:「でも、傷つけない」
紫:「飢えさせない」
紫:「孤独にもしない」
赤が続ける。
赤:「俺らが全部、やる」
水は微笑む。
水:「外より、安全だよっ!」
桃は、視線を巡らせた。
逃げ場のない部屋。
そして――
逃がす気のない目。
怖い。
確かに、怖い。
でも。
桃:「……俺が、いなくなったら」
桃は、ゆっくり言葉を選んだ。
桃:「……みんな、壊れる?」
その問いに、
誰も即答しなかった。
それが、答えだった。
桃は、そっと息を吐いた。
桃:「……分かった」
緑の目が、きらりと揺れる。
黄が、嬉しそうに息を吸う。
水の笑みが、深くなる。
赤は、安堵したように肩を落とす。
紫だけが、桃をじっと見ていた。
桃:「でも」
桃は、紫を見返す。
桃:「俺の心まで、閉じ込めないで」
一拍。
紫は、ゆっくり頷いた。
紫:「……約束する」
本当かどうかなんて、分からない。
扉の外は、もう遠い。
でも桃は、椅子に座り直した。
逃げ場のない部屋で、
それでも桃は、ちゃんと息をしようとした。
……その時だった。
紫:「桃」
紫が、静かに名前を呼ぶ。
その声に、桃の肩がびくりと跳ねた。
紫の手には、細い黒い輪があった。
革でも、金属でもない。
軽くて、やわらかくて――
逃げる意思だけを否定するためのもの。
桃:「なに、それ……」
声が、震える。
赤が一歩近づく。
水は扉の前から動かない。
緑と黄は、左右から、そっと距離を詰める。
囲まれる。
水:「しるし、だよ?」
水が穏やかに言った。
水:「桃くんが、ここにいるって」
桃:「いらない……」
桃は、かすかに首を振った。
桃:「それは……こわい……」
緑が、申し訳なさそうに眉を下げる。
緑:「でも……つけないと……」
黄は、泣きそうな顔で笑った。
黄:「逃げちゃいそうだもん……」
紫は、桃の前にしゃがみ込む。
視線を合わせる。
紫:「暴れさせない」
紫:「傷つけない」
紫:「捨てない」
一つずつ、言い聞かせるように。
「……でも、外には戻さないから」
桃の喉が、ひくりと鳴る。
怖い。
目が、怖い。
全員、同じ目をしている。
逃げられないと、
もう決まっている目。
桃: 「……やだ……」
小さな声。
でも、誰も止まらなかった。
紫の手が、ゆっくりと伸びて、
桃の首元に触れる。
抵抗する力は、もう残っていなかった。
カチリ
音は、静かだった。
首に、重さはほとんどない。
でもそれは、
桃が「外へ行かない存在」になった証だった。
桃の視界が、揺れる。
桃:「……こわい……」
その呟きに、
緑はすぐそばに寄り、
黄は袖を掴み、
赤は視線を逸らし、
水は扉に背を預け、
紫は、そっと額を寄せた。
そして――
緑:「……♡」
黄:「……♡」
赤:「……♡」
水:「……♡」
紫:「……♡」
五人の視線が、静かに、
桃だけに向かって重なる。
怖いはずなのに、
背筋がぞくりとするほど甘い。
その中心で、
首輪をつけたまま、桃は震えていた。
「…やっと捕まえた」
,,,,Thank you for reading,,,,
♡多付=続編
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