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「お久しぶりですわね、フィリップス殿下。それに……マリアンヌ嬢」
イザベルの声は冷静さを保っていたが、その目には氷のような冷たさが宿っていた。
彼女の登場に気づいた人々が次々と振り返り、小さなざわめきが広がっていく。
「あの没落令嬢だ」
「いや違う、別人みたいに美しい」
「両親のせいで失敗した女だ」
と陰口が聞こえてくる。
マリアンヌは一瞬驚きを見せたが、すぐに嘲るような笑みを浮かべて挑発する。
「まあイザベル様。こんなところでお目にかかるなんて思いませんでしたわ。あなたの顔は社交界でも忘れ去られておりましたよ?」
イザベルは静かに微笑むと、「そうかもしれませんね。ですが今日は少し用事がありまして」と答えながら優雅に一礼する。
そして真っ直ぐフィリップスを見つめた。
「殿下。私があなたの視界から消えてからもう二年になります。あなたは随分と幸せそうなご様子ですね。マリアンヌ嬢はとても愛らしい方ですから、さぞ充実した日々をお過ごしでしょう」
その言葉には皮肉だけではなく、どこか痛々しい響きがあった。
フィリップスの顔色が変わる。
「イザベル……君はなぜここに? 君には関係ないことだろう」
イザベルは一歩前へ進み出る。
「ええ、確かに直接的な関係はありません。しかしあなた方がこの城で開催されるパーティーの招待状を受け取っていらっしゃる以上、私も来られるわけですわ」
一言おいて、マリアンヌに向き直る。
「ところでマリアンヌ嬢。私の家門があなたのお母上のご出身であるコルベール侯爵家について調査した結果をお伝えしなければなりません。コルベール侯爵家は過去数年間多額の借金を抱えており……」
その瞬間、彼女の顔色が変わった。
「何を言ってるの!? 私たちには何の問題も……」
イザベルは静かに懐から書類を取り出す。
「こちらをご覧ください。あなたの父親であるラモン・コルベール氏名義で多数の不正取引記録があります。このままでは侯爵家の名誉にも傷がつきかねません」
周囲の人々もその事実に気づき始め、「コルベール家がそんな……」「これは一大事だ」と囁き合う声が広まった。
マリアンヌは震える手で書類を奪い取ろうとするが、「証拠隠滅など不可能ですよ。既に国王陛下にも報告済みですから」と冷たい声で遮られる。
フィリップスも混乱した表情で立ち上がる。
「一体どういうことだ!? この事実は初耳だ!」
イザベルは深呼吸してから続けた。
「それからもう一つ。あなた方は私への冤罪事件について忘れておりませんよね? 私が罠にはめられた真実を今ここで明らかにして差し上げましょうか?」
この一言で大広間全体が凍り付いたようだった。