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どうも、現在進行形で絶体絶命のシャーリィ=アーキハクトです。やっぱり世界は意地悪でくそったれです。
ダンジョンなんてファンタジー場所で冒険を楽しみ暗黒街で疲れ果てた心を癒していたのに、最後の最後にワイトキングが出てきました。アンデッド種最上位の魔物であり、これまで討伐例がほとんど無い化け物です。
どうやらこの世界はとことん私に試練を与えたいようですね。神様とやらには、笑顔で中指を立てて差し上げましょう。
などと現実逃避していますが、今まさに命の危機です。
「ワイトキングかぁ。ダンジョンのボスなら当たり前か。ついてないな」
「死ぬ前にシャーリィと子供作りたかったなぁ。いや、もう一回ヤりたかった」
早くも男性二人は諦めムードですね。というか、ルイはこんな時までお猿さんでした。逆に緊張感がなくて困りますね。
「……シャーリィ」
アスカが不安そうに私を見上げてきます。ここで怖い思いをさせてはいけませんね。
「大丈夫ですよ、アスカ」
私はアスカの頭を撫でながら落ち着かせます。
…はて?
「……」
部屋に現れたワイトキングはただ佇みこちらを攻撃するような素振りを見せていません。白骨化した頭がじっとこちらを見ているだけです。
「なにもしてこない……?」
「油断するなよ、お嬢。何をしてくるか分からねぇぞ」
ベルが大剣を構えながら様子を見ています。ふむ。
「なっ!?おい!シャーリィ!」
私はゆっくりと前に出てワイトキングと距離を詰めます。慌ててルイ達がついてきます。
「初めまして、シャーリィと申します。このダンジョンの主様とお見受けしました。お騒がせしたことを謝罪します」
私は思い切ってワイトキングに語りかけてみました。上位の魔物は高い知性を持つとお母様に聞いたことがあったからです。
《人間の少女よ、そなたは我を怖れぬか》
少し待つと、胸に響くような厳かな声が聞こえました。
「喋ったのか!?」
「ルイ、静かに。怖れていないわけではありません。しかし、貴方の領域へ勝手に踏み入った非礼をお詫びしなければと」
《面白き事を話す。我を見た者は逃げ出すか挑み掛かるか。語りかけてきたのは、そなたが初めてである》
威厳を感じさせる佇まいのまま、ワイトキングは答えてくれました。
「光栄です。私達は貴方の領域を脅かすような意図はございません。ただこのダンジョンに住まうアンデッド種が外へ出ないようにしていただけるならば、すぐに引き上げます。死者の王よ、どうか共存の願いをお聞き届け下さいませんか?」
《共存と申すか。そなたは面白き娘である。これまでの人間とは違うようだ》
「畏れ入ります」
戦わない道があるならそれが一番です。まして相手はワイトキング、勝ち目なんてありません。
《ふむ、その勇気を称えよう。アンデッド共を二度とこのダンジョンに現れぬようにするのは容易い》
「貴方のさじ加減一つであると?」
《左様、ダンジョンのあらゆる物はその主たる存在のさじ加減一つで容易に操作できる》
「ありがとうございます」
お話が通じる方で良かった。
《しかし、無償でとは言うまいな?》
「もちろん出来ることをさせていただきます。ただ使命があるので、命だけは差し出すことは出来ませんが」
《その様なものは望まぬ。我とて千年前に封じられた身、何故再びダンジョンが甦ったか知らぬのだ。そして、我は勇気あるそなたに興味を抱いた》
再び蘇った?千年前に封じられた?
「では?」
《定期的に我と他愛ない話をしてくれれば良い。我は知識に餓えており野蛮な野心はない。そなたが剣を向けぬ限り我も言葉で答えよう》
「マジかよ」
「喜んで」
戦わないで済むならそれに越したことはありません。それに、死者の王と親しくなれるチャンスです。
《即答とは畏れ入る。勇気ある少女よ、そなたとの語らいを楽しみにしておくとしよう》
「では今から早速に。あっ、ここまでの距離がありますから長居は出来ませんが」
車でも数時間掛かりますからね。
《それは心配に及ばぬ、この場と出入り口を直接繋げよう》
「その様なことが出来るのですか?」
《ダンジョンは謂わば異空間のようなものであると考えよ。その操作もまた我の意思による》
「ダンジョンコアなるものがあると聞いていましたが」
《少なくともこの領域にその様なものは無い》
色々と聞きたいことが増えてきましたね。
「その様なことが……分かりました。皆は先に帰ってください」
「ばか言うな、お嬢」
「お前を一人に出来るかよ!」
「ルイの言う通りだ。ワイトキングさんよ、随分とあっさり決めたが何が狙いなんだ?アンタを疑いたくはないが、どうしても警戒しちまう」
《青年よ、そなたの懸念は当然の反応である。むしろ警戒せずに我と語らう少女が異常なものである。それ故に我は少女に関心を抱いた。我の望みは知識である。千年の眠りから覚め、知識を得ることを欲している。故に、少女へ危害を加える理由もない》
「知識が欲しいのか」
《これは取引である。少女の言葉が我の好奇心を満たすものである限り、我も手出しはせぬ。ワイトキングとしての名誉に誓おう》
「けどよぉ」
「ルイ、これ以上は失礼に値します」
「シャーリィ」
「大丈夫です。もし私が危険に晒されたとしてもそれは私自身の自業自得。それに、私はこの機会を無駄にしたくはないのです」
「……分かった、入り口で待ってる」
「ベル、拠点の撤収を指示してください。死者の王よ、私が帰るまで、夜まではダンジョンをそのままにしておいて頂けませんか?」
《構わぬ、雑作もないこと》
「ありがとうございます。アスカ、夜には戻りますからね」
「……気をつけて」
「ワイトキングさんよ、アンタを信じるのは難しいが、うちのお嬢が世話になる」
《案ずるな青年よ、我等死者は偽りを申さぬ。これはアンデッドの宿命、夜には娘を返そう》
ベル、ルイ、アスカは最後まで私を気にしながら部屋を出ていきました。
《ふむ、そなたの話を聞くだけでは対価とならぬな。そなたの話が面白ければ、そなたの持つ魔石の扱いに助言を授けよう》
「では、あなたをマスターと呼ばせていただきますね」
魔石の扱いはマーサさんに学ぶ以外は独学でしたからね。ワイトキングは叡智を持つと聞きますし。
《我を師と呼ぶか。益々面白き娘であるな》
「では早速お話をしましょう。先ずはマスターが封じられてからの千年の歴史を。簡単ではありますけど、そこはご容赦を」
《うむ》
シャーリィ=アーキハクト十七歳春の日、彼女は上位種ワイトキングと交流を始める。世界史から見ても前代未聞のことである。