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仁人は、あの夜の夢を何度も見た。 雨の中 四人に背を向ける自分。 そして その直前に聞いた、誰かの声。
――『来世では、もう会いませんように』
自分はそう願った。 でも どうして その願いを口にしたのか。 そこだけが、どうしても思い出せない。
「……誰かに、何か言われた」
朝、 仁人は一人で呟いた。
「絶対に」
あのとき 自分は何かを聞いた。 それがきっかけで 四人から離れることを決めた。
*
「仁人!」
学校に着くと、勇斗が駆け寄ってきた。
「昨日、大丈夫だった?」
「うん」
「ちゃんと寝た?」
「……少しだけ」
勇斗が苦笑する。
「また考えてたんだろ」
「……うん」
仁人は正直に答えた。
「前世の最後に、誰かに何か言われた気がする」
「誰に?」
「分からない」
そこへ舜太と太智、柔太朗もやってくる。
「俺らも探してみよ」
舜太が言う。
「一人で考えても分からんやろ」
「でも、どうやって?」
「昨日の写真とか、昔の記録とか」
太智が言う。
「まだ何か残ってるかもしれん」
「……ありがとう」
仁人が笑う。 四人は当たり前のように笑い返した。 その瞬間 仁人は思った。 ――この四人となら。 もしかしたら 今度こそ。
*
放課後、 五人はもう一度、昔の記録を調べていた。 そして。
「これ……」
柔太朗が一枚の紙を見つける。 古い新聞の切り抜き。 そこには、遊園地で撮られた写真が載っていた。
「これ、あの日だ」
勇斗が言う。 五人が写っている。 でも 写真の下に、 小さな文章があった。
――『仲の良い五人組が、最後の記念に写真を撮った。』
「最後の……?」
仁人が呟く。 記事を読む。 そこには 五人がその日を最後に、離れ離れになったことが書かれていた。
「……どうして?」
太智が眉を寄せる。
「何があったんやろ」
記事には理由が書かれていない。 ただ 最後に一文。
――『一人の少年は、友人たちに別れを告げた後、姿を消した。』
仁人の手が止まった。
「……少年」
四人を見る。
「俺だ」
誰も否定できなかった。 写真に写っている五人。 最後にいなくなった一人、 それは仁人だった。
*
その夜、 仁人は眠れなかった。 記事の言葉が頭から離れない。
――友人たちに別れを告げた後、 別れを告げた。 でも なぜ?
「……思い出せ」
目を閉じる。 雨。 四人。 自分。 そして 誰かが近づいてくる。
『仁人』
名前を呼ばれた。 その声は 四人の誰でもなかった。 もっと近い。 もっと優しい。 まるで 自分のことを誰よりも知っているような声。
『お願いだから』
声が震える。
『あの四人を、もう苦しませないで』
「……!」
仁人が目を開ける。
「今の……」
思い出した。 あの言葉。 自分が四人から離れることを決めた理由。 でも まだ顔が見えない。 誰だったのか、 分からない。
*
翌日、 仁人は四人にそのことを話した。
「誰かに言われたんだ」
「何を?」
「『あの四人を、もう苦しませないで』って」
四人の顔が曇る。
「それで……仁人は俺たちから離れた?」
勇斗が聞く。
「うん」
仁人は頷いた。
「俺は、その人の言葉を信じた」
「でも」
柔太朗が言う。
「その人は、どうしてそんなことを言ったんだろう」
「分からない」
「じゃあ、探そう」
太智が言った。
「その人が誰なのか」
「……うん」
五人はまた歩き始める。 けれど 仁人だけは、 胸の奥に嫌な予感を抱えていた。 あの声は 敵意のある声ではなかった。 むしろ 五人を大切に思っているような声だった。 だからこそ 余計に分からない。 なぜ、その人は 自分にそんな願いをさせたのか。
*
その日の帰り道、 仁人はふと立ち止まった。
「……待って」
「どうした?」
勇斗が振り返る。
「俺、思い出した」
「何を?」
仁人はゆっくり顔を上げる。
「あの人が最後に言った言葉」
四人が黙る。
「『あなたがいなくなれば、四人は幸せになれる』って」
空気が止まった。
「……そんな」
勇斗が呟く。
「でも」
仁人の声が震える。
「俺は、それを信じた」
だから、 自分から離れた。 だから、 最後に こう願った。
――『来世では、もう会いませんように』
四人を守るために。 自分がいなくなるために。
でも、
「……違う」
仁人が首を振った。
「今なら分かる」
「何が?」
「俺が離れたら……」
四人を見る。
「みんな、幸せになるどころか」
涙が落ちる。
「もっと苦しんだんだ」
勇斗が仁人の肩に手を置く。
「だから今度は」
静かに言った。
「誰か一人の言葉じゃなくて」
四人が仁人を見る。
「五人で決めよう」
「……」
「もう、仁人一人に決めさせない」
仁人は泣きながら笑った。
「……うん」
その瞬間、 遠い記憶の中で 誰かが最後に言った言葉が もう一度だけ 聞こえた。
――『ごめんね。』
仁人は息を呑んだ。 その声は 自分が一番よく知っている声だった。
コメント
1件
わあ、今回もすごかったです……!仁人がついにあの声を思い出した瞬間、ゾッとすると同時に胸が締め付けられました。「あなたがいなくなれば四人は幸せになれる」って、逆に四人を苦しめる結果になるなんて、切なすぎます。でも「五人で決めよう」って言ってくれた勇斗たちの存在が本当に尊い。最後の「ごめんね」は、まさかあの声が一番近しい人のものだったとは……引き込まれました!