テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
124
16
――『ごめんね。』
その声が 仁人の頭から離れなかった。 何度思い返しても 聞き間違えるはずがない。 あれは――
「……勇斗の声だった」
翌朝 仁人がそう呟くと、四人が一斉に顔を上げた。
「俺?」
勇斗が自分を指差す。
「うん」
仁人は頷いた。
「あのとき、俺に『ごめんね』って言ったのは……勇斗だった」
「でも、俺は覚えてない」
「俺も」
仁人は写真を見つめる。
「だから、前世の勇斗が何を言ったのか……思い出したい」
*
五人は放課後、もう一度あの遊園地へ向かった。 閉園した遊園地。 もう誰もいない。 それでも 五人が足を踏み入れた瞬間 仁人の中で、記憶が揺れた。
――雨。 あの日と同じ雨。 五人は観覧車の近くに立っている。 勇斗が仁人の前にいた。
『ごめん』
勇斗が泣いている。
『俺たちが、もっと早く気づいてれば』
『……何を?』
『仁人がずっと怖がってたこと』
仁人の息が止まる。 記憶の中の自分は。 泣きながら首を振っていた。
『違う』
『違わない』
『俺がいなくなればいいんだよ』
『そんなこと言うなよ』
勇斗が仁人の腕を掴む。
『俺たちは五人でいたい』
『でも、また誰かがいなくなる』
『そんなの分からないだろ!』
『分かるんだよ!』
仁人が叫ぶ。
『何回も見たんだから!』
四人が言葉を失う。 仁人だけが 何度も同じ人生を繰り返していた。 何度も 四人との別れを見てきた。 だから 今度こそ、 自分から離れようとした。
『お願いだから』
勇斗が泣きながら言う。
『一人で決めないで』
仁人は首を振る。
『ごめん』
『仁人!』
『来世では……』
そこで 記憶が途切れた。
「……」
仁人は目を開ける。 目の前に 今の四人がいる。 勇斗は何も言わなかった。 ただ 仁人を見つめていた。
「……俺、前世でも同じこと言ってたんだな」
「うん」
仁人が頷く。
「『一人で決めないで』って」
勇斗が苦しそうに笑う。
「今も同じだ」
「え?」
「仁人は、今も一人で全部決めようとしてる」
仁人の目に涙が浮かぶ。
「……ごめん」
「謝らなくていい」
勇斗は首を振った。
「今度は、俺たちがちゃんとそばにいるから」
*
そのとき 舜太が何かを見つけた。
「なあ」
地面に落ちていた、小さな箱。 開けると 中には古い写真が何枚も入っていた。
「これ……」
太智が一枚を手に取る。 五人で写った写真。 その裏には 短い文章が書かれていた。
――『五人でいることが、当たり前だと思っていた。』
次の写真。
――『でも、当たり前は突然なくなる。』
次。
――『だから、最後の日を忘れないために残す。』
「……最後の日」
柔太朗が呟く。 五人は写真を並べていく。 そこには 前世の五人の本当の最後の日が、順番に残されていた。 遊園地。 観覧車。 夕暮れ。 雨。 そして、 最後の写真。 五人のうち 一人だけが写っていない。 仁人だった。 写真の裏には これまでで一番長い文章が書かれていた。
――『仁人がいなくなったあと、俺たちは何度も待った。』
――『いつか帰ってくると思っていた。』
――『でも、帰ってこなかった。』
そして最後に。
――『だから、次に会えたら、今度こそ最後まで。』
仁人の目から涙が落ちる。
「……これ」
写真を抱きしめる。
「俺を待ってたんだ」
「うん」
勇斗が答える。
「ずっと」
舜太が仁人の肩を叩く。
「今度は待たせんといてな」
「……うん」
太智も笑う。
「勝手に消えたらあかんで」
「分かった」
柔太朗が小指を差し出す。
「約束」
仁人はその小指に自分の小指を絡める。
「約束」
五人の小指が重なる その瞬間、 仁人の頭の中に 最後の記憶が浮かんだ。 前世の自分が 四人に背を向ける直前、 誰かが言った。
『仁人』
振り返る。 勇斗が泣いている。
『もし、来世でも会えたら』
仁人は答えない。
『今度は、絶対に離れないから』
そして 仁人は泣きながら。
『……うん』
そう答えた。
――これが 五人の最後の約束だった。 仁人は目を開ける。
「……思い出した」
「何を?」
四人が聞く。 仁人は涙を拭う。
「俺……最後に、約束してた」
「どんな?」
「来世で会えたら」
四人を見る。
「今度は、絶対に離れないって」
五人は静かに笑った。 けれど まだ 誰も気づいていなかった。 その約束が 今世で叶うためには、最後に一つだけ越えなければならないものがあることを。
コメント
1件
うわあ…読んでて胸がぎゅっとなりました。「一人で決めないで」って言葉、めちゃくちゃ刺さります。仁人が何度も繰り返してきた孤独と、それでも四人が待ち続けてくれた重み。写真の裏書きの演出も効いてました。まだ越えなきゃいけないものがあるっていうのが気になる…。続き、すごく気になります!