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「この仮面を外せる日が来るだなんて」
私と瓜二つの顔を持ったニーノは震えた手つきで自分の顔を何度もペタペタ触った。
「これが私の顔……ミアお姉さま、ありがとう!」
ニーノは破顔しながらそう言うと、私に飛びつき力強くハグしてくる。
私もニーノに負けないくらいに力強くハグをし返した。
「ねえ、ミアお姉さま。私の顔はどんな感じなのか教えてくれる?」
「やっぱり双子ね。見分けがつかないくらい私と瓜二つよ!」
「そうなの? ミアお姉さまと一緒で私嬉しい!」
そう言うと、ニーノは甘えるように頬を摺り寄せて来ると、口元を私の耳元に寄せると呟き始める。
ニーノの吐息が耳にかかるのを感じた。
「ねえ、ミア御姉様、ご存知でした?」
「何を?」
「私、この世の誰よりもミア御姉様が大嫌いなのよ」
「え?」
ニーノ、貴女、今、何て言ったの?
目を点にしながら私はニーノが囁いてきた言葉を何度も頭の中で反芻する。
大嫌い。大嫌い。大嫌い。大嫌い…………。
誰が?
ミアお姉さまのことが。
え? え? え……⁉
頭の中が真っ白になり私は固まった。動揺のあまり声が出せなくなってしまった。
冗談は止して、ニーノ。そう言いたかったのだが、どうやってもその一言を口にすることが出来なかった。
私が答えに窮していると、それは突如として起こった。
ニーノの全身からドス黒い魔力が立ち昇ると、それは無数の毒蛇の姿に変貌した。
「まさかこれは⁉」
それは魔力ではなく瘴気だった。
何故、ニーノから瘴気が立ち昇っているの⁉
私はパニック状態に陥り、為す術もなく毒蛇によって全身を拘束される。
毒蛇はまるで鋼鉄の鎖のような固さで全身を締め付けて来る。身体がミシミシと悲鳴を上げ、骨が砕け散りそうな痛みと衝撃が全身を駆け巡った。
痛い! 全身が引き千切られそうだわ⁉
私は抵抗することも出来ず石畳の上に倒れると、あまりの激痛に呻き声を洩らすことしか出来なかった。
石畳に倒れた瞬間、首から聖女覚醒の時に現れたペンダントが落ち、ニーノの方に転がって行くのが見えた。
ニーノは足元に転がったペンダントを拾い上げるとそれを見てほくそ笑んだ。
「ミアお姉さま、素晴らしい玩具をお持ちで。これは今度の誕生日プレゼントにいただいておきますわね」
ニーノはそう言うと、蛇の目玉の様な紋様が刻まれたペンダントを首にかけた。
これは何が起こっているの?
私は未だに状況を理解することが出来ず、ただパニック状態に陥っていた。
「ニーノ……?」
痛みを堪えながら必死の思いで顔を見上げると、そこには私の知らない誰かが佇んでいた。
そこにいるのは確かにニーノのはずなのに、彼女から立ち昇る瘴気は悪魔の様な装いを見せていた。
これがあのニーノなの? いつも子供の様に笑いながら私の作ったアップルパイを嬉しそうに頬張っていた最愛の妹とは別人にしか見えなかった。
ニーノは口元に笑みを浮かべていた。ただしそれはいつものような向日葵のような暖かいものではなく、凍てついた悪魔の様な微笑だった。口の端を吊り上げ、引きつった表情を浮かべていた。
「何故、ニーノから黒いマナが!? 禍々しくもおぞましい、まるで魔女のような……!?」
まさか。
そのことに気付いてしまった瞬間、私の心の底から言い知れない恐怖と絶望がこみ上げて来る。
〈双子聖女の伝説は真実だったというの⁉〉
だとしたら、私は世界を破滅に導く魔女をこの世に解き放ってしまったことになる。
「ニーノ、どうして……⁉」
私はニーノを見上げながら悲痛な呻き声を吐き洩らした。
「ミアお姉さま、もう一つ教えて差し上げますわ」
ニーノはそう言うと、ペッと私に唾を吐きかける。
「私、アップルパイは吐き気をもよおすほど大嫌いな食べ物なの。これでもう食べなくて済むかと思うと嬉しくて涙が出そう」
次の瞬間、私は頬に強い衝撃を受けた。
左頬に激痛が走り、身体が横に勢いよく一回転した。そこでようやく私はニーノに左頬を蹴り飛ばされたことを知る。
「ニーノ、どうしてこんな酷いことをするの⁉ 私、気に障るようなことをした⁉ お願い、答えて⁉」
「ミアお姉さま、それ、本気で言ってるの? だとしたら、頭にウジ虫でも湧いているんじゃありませんの?」
ニーノは忌々し気にそう吐き捨てながら、私の頭を何度も何度も足蹴にしてくる。
「まあいいですよ。今までお城で何不自由なくお姫様していたのですから、頭がお花畑だったとしても私は許します。それに、これからミアお姉さまにはやってもらいたいことがありますしね」
すると、ニーノは鉄仮面を持ち上げると笑顔で私に近寄って来る。
「ミアお姉さまのお墨付きもいただいたことですし、何の問題もなく計画を実行に移せますわね」
「計画? 何を言っているの?」
ニーノは私の問いかけには答えず、持っていた鉄仮面を私の眼前に持ってくる。
「今日からお前が魔女よ」
その一言でようやくニーノの真意に気付くことが出来た。
「ニーノ、止め……⁉」
次の瞬間、ニーノは一気に私の頭に鉄仮面を被せた。冷たい鉄の感触が顔を覆い尽くした瞬間、バリバリ! と激しい電撃の衝撃が全身を駆け巡った。
「残りの余生をせいぜい楽しんでね。まぁ“魔女として”だけど」
電撃の衝撃に私は意識を失いかけた。
意識が完全に闇に呑み込まれる寸前まで、ニーノの甲高い笑い声が響いてきた。
こうして私はこの日、聖女ではなく魔女に入れ替わられてしまったのだった。