テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
キーボードの前に座った涼ちゃんは、演奏の準備をする手が震えるのを自分でも感じていた。息遣いがだんだんと荒くなり、額には汗が滲む。肺に入った空気は重たく、胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
「…っ、はぁ……はぁ……」
その様子にスタッフもすぐに気づき、慌てて近づいてきた。
「藤澤さん、顔色悪いですよ。少し休みましょうか?」
優しく声をかけられたが、涼ちゃんは自分に期待されていることが頭から離れず、必死になって首を横に振る。
「い、えっ……大丈夫です、僕……でき、ますから……」
それでも、涼ちゃんの声は苦しそうに震えていた。
スタッフがさらに心配の色を深めて、そっと見守る。
楽屋のドアの隙間から、元貴と若井もそのやり取りを見つめていた。
不安と焦りが2人の顔ににじんでいた――だが、涼ちゃんはただ、強い意志だけで立ち上がろうとしていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!