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現実世界――
ないこは、再び鏡の前に立っていた。
昨日より深くひび割れたその表面は、どこか“境界”を越えようとしているように見えた。
ないこ(心の声):
「……まだ、いるんだよね……あの“わたし”が」
鏡の奥に、もう一人の“ないこ”がいる。
叫んで、泣いて、壊れそうなまま、そこでずっと立ち尽くしている。
ないこ(心の声):
「逃げたいのは、わたしじゃない。
……きっと、あの子のほうだった」
ないこは、そっと鏡に手を伸ばす。
その指先が触れた瞬間――
パリン
小さく音を立てて、鏡の表面が弾けた。
しかし、砕けることはなく、代わりに**“向こう側”の世界**が開いていた。
*
深層――鏡の裏側。
闇ないこは、鏡の前で立ち尽くしていた。
彼の目の前に、“ないこ”が立っていた。
現実の姿そのまま。
言葉はなくとも、その瞳に宿る想いは、すべてを物語っていた。
闇ないこ(眉をひそめて):
「……何しに来たんだよ。
今さら、慰めでもしに?」
ないこは首を横に振る。
代わりに、胸元から取り出したのは、ギターピックだった。
かつて、ふたりが“同じもの”だった証。
それをそっと、鏡の床に置く。
ないこ(心の声):
「もう、ひとりで泣かなくていい。
あなたは、わたし。
ずっと叫んでくれてた……ありがとう」
闇ないこは、ピタリと動きを止める。
その頬を、一筋の涙が静かに流れていた。
闇ないこ(声を震わせながら):
「オレは……オレはずっと、壊れた“おまえ”を背負って、代わりに怒って、叫んで……
それしか、できなかったのに……!」
ないこは、そっと歩み寄る。
声は出ない。でもその手は、まっすぐ差し出されていた。
ないこ(心の声):
「あなたが守ってくれた。
今度は、わたしが……あなたを抱きしめる番」
その瞬間――
闇ないこは、初めて涙をこらえずに泣いた。
怒りでも憎しみでもなく、“救われた”涙を。
ゆっくりと、ふたりの手が触れ合い、光が、深層を満たしていく。
*
現実世界――
ないこの部屋の鏡が、音もなく割れ、静かに砕け散った。
粉々になった破片は、光の粒となって空中に消えていく。
そして――ないこは、喉に力が戻っていることに気づいた。
ないこ(ぽつりと):
「……ただいま」
その言葉は、しっかりと音になっていた。
闇と向き合い、そして繋がったその先で――
“ないこ”の声は、ようやく現実に帰ってきた。
次回:「第二十二話:壊れていたのは誰か」へ続く