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「……なるほど。ああやって作っていたわけか」
「? アックさん、何のことです?」
「いえ、ルティが特製飲み物を作っているのを初めて見るもので」
「そういえばルティちゃんって錬金術も使えるんですね! ドワーフ族って聞いてましたから手先の器用さに納得です」
捕らえた冒険者たちを眠らせるための特製ミルク。
ルティは今それを一所懸命に作っているわけだが。どうやって作っていたのか、おれはその作り方を今まで見たことが無かった。彼女は今までどこに行くにもガチャによって一緒についてきたデカい樽を持参していた。
しかし収納スキルを持たない彼女が、樽をずっと運ぶわけにもいかない。それだけにお手製の飲み物やら食べ物をどう作るのか以前から興味があった。しかし、まさかの錬金術を使っていたのは驚きだ。
「アック様っ! 出来ました!! 特製ミルクですっ」
「お、おぉ」
見たままの感想になるが、どうやら素材となる獣の皮や水、防具に至るまで分解をして作り出せるといったところだろうか。
「たくさん魔物を倒しておいて正解でした~!」
「それの効果が睡眠か?」
「ふっふっふっ~! それは冒険者さんたちに飲ませてみれば分かりますっ!」
「それならいいが……」
少し離れた所に動きを封じられ動けない冒険者の姿がある。アクセリナが全身を麻痺させていたようで、彼らはその場から動けずにいるようだ。
そんな彼らの反応は、
「なっ、何を飲ませるつもりだ!?」「おい、やめろ!」「やめてくれ~!!」などと、悲鳴に似た声ばかり。彼らの声を気にせず動じることのないルティの様子はとても嬉しそうで、木のコップを手にして満面の笑顔だ。
「さぁ、どうぞどうぞ! これを飲めばばっちりです!!」
何がばっちりかは分からないが、ルティに抵抗することなく彼らは特製ミルクを飲み干した。直後、彼らは目を閉じ静かに寝息を立て始めていた。
「あ、あっさりでしたね。さすがルティちゃん」
「ルティお手製の効き目は相当なものがありますよ。それは間違いないのでここに寝かせておきますか」
「そうですね。凍結させた木々もじきに融けるでしょうから」
おれがかけた魔法の効果は永久でも無く、時間が経てば元に戻るがそれでも眠っている者がいた場合、凍傷か凍死の恐れがあり危険な目に遭うのは避けられない。しかしルティの特製ミルクの効果は全く予想がつかないのが現状だ。
しばらく経ち、ルティが戻ってくる。
「アック様! 戻りましたっ! そんなわけで、冒険者さんたちを寝かせたままにしますか~?」
「一応聞くがミルクの効果は睡眠だけか?」
「それがですね、ポカポカと温まりながら目覚めた時には、何と! 体力が回復するんですよ~! ですのでアック様のかけた凍結魔法でおかしくなることはありませんっ!」
「そ、それならいいか」
「はいっっ!」
睡眠効果に体力回復か。あの流れの中で、一体どうやって作っていたのだろうか。色々おかしな点など気にはなるが、戦士たちを眠らせることが出来ただけで良しとする。
「ルティ、アクセリナ!」
「はいっ! アック様」
「はい」
「おれたちはこれから砦に突入する。おれが先に行く。二人は後ろからついて来てくれ!」
冒険者たちの問題は解決した。動くなら今しか無い。
「ええっ!? だ、大胆に行ってしまうのですか?」
「アックさん、様子を見ながら行くべきでは?」
「砦が見えている状況で時間をかけてしまえば厄介なことが増える。中にいるのが冒険者ってことなら大した強さの奴はいないはずだ! ルティはアクセリナから離れるなよ?」
ルティを負傷させた奴らの強さがSランク以上だとしても大した強さじゃないだろう。砦を沈めてしまえば簡単だが、普通の冒険者を敵に回すのは避けなければならない。
「アックさん、あなた自身の回復は――」
「おれは平気ですよ。おれよりも、ルティの傍にいてやってください」
「分かりました」
ルティの傷は癒え、耐性も得られたとはいえルティは温存しておく必要がある。体力もそうだが落ち着かせることも必要だからだ。
「よし、じゃあおれは先に――」
すぐに動こうとするおれの前に、
「その前にアック様、これをグイグイと!」
ルティが立ちはだかった。
「……言っとくが、睡眠ミルクは飲まないぞ?」
「アック様なら睡眠耐性がありますから飲んでも大丈夫……って、そうじゃなくてっ! アック様専用の特製ミルクなのです。さぁさぁさぁ!」
「うっ……ぐっ、んっ……んぐっ――!?」
何だこれ、これは甘すぎるぞ。こんな甘さの中にどういう成分が含まれているんだ?
睡眠効果はともかく相変わらず突発的過ぎる。
「お味はいかがですか?」
「甘い……それよりも効果は?」
「それはですね~砦で戦いが生じた時に気付けるはずですっ!」
「何だそりゃ」
戦闘中に発揮する効果とは珍しいが、ルティの腕が上がったことは喜ぶべきだろうか。
「アックさん、お身体は何ともないんです?」
「今のところ特には……」
「特製ミルクを飲ませる行為そのものに回復士に似た気配を感じますけど、ルティちゃんって錬金術と盗賊スキルだけじゃないんですか?」
ルティは自称回復魔道士だ。もしかすれば、回復に特化した何かがそう感じさせたかもしれないな。
「わたし、一応回復魔道士なんですよ~! アクセリナさんと同じでして。えへへ」
「え? えぇ? そうだったの!? 魔法を使えないのに錬金術で作り出せるなんて凄いよ!」
ルティの場合は魔法でどうこうするタイプじゃないのだが、回復の才能が錬金術で開花しただけのことだろう。何の効果が発揮されるかは不明だが。
まずはおれが先行して砦に突入、先に進むことにする。