前書き
今回の話には、
『264.タルタロスの大穴』
『350.地球の誕生 (挿絵あり)』
『351.炭素14』
『522.終末の黄金』
の内容が含まれております。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
周りを見渡して冷静に声を発したのはスプラタ・マンユの次兄、モラクスである。
「地球が破壊されてレグバが死に、君はどうやってループして来たのか、聞かせて貰えるだろうか」
「勿論よモラクス義兄さん、今から二十五年後の未来で、地球は空から降り注いだ圧倒的な破壊の脅威に曝(さら)される事になるの…… それを齎(もたら)した天体の名は『デイモス』」
ここまで鋭い目つきで成り行きを見守っていたアスタロトがこの言葉に答えたが、額の第三の目が飛び出さんばかりに見開かれていたのであった。
「『デイモス』だと! 火星の月だなっ! 火星と言えば…… マーズとヘカトンケイル、キュプロクス、以前バアルが言っていたが、あいつ等が帰ってくると言うのかっ!」
「その通りよ、でも彼等と言うよりは、元彼等だった物、そのほうが正確な表現ね…… 地球に迫った彼等は最早、個々の自我を保て無かったのよ…… そしてドロドロに溶け合った混濁した意識の元で叫び続けていたのよ、彼等の救い主、ルキフェルの名を…… 救いを求める苦痛の唸り声と共に、ね」
「むうぅ」
唸りを上げたアスタロトを無視してカーリーは話を続ける。
「彼等はルキフェルから指示を受けていたのよ、地球ヤバイ、そうなった時の為のリザーバーの役目をね、仰せつかっていたのよ…… そして、地球の命が魔力過多によって終(つい)える、そう思った時に地球に帰還して命の消失、それを紡ごうとしたのよ…… 丁度最接近した太陽の引力を利用してね…… ほら、皆知ってる言い方だとスリングショットよ、遠心力だっけか? あれを応用して地球に戻ろうとしたんだけどさ、恒星に近付きすぎたんだろうねぇ、地球に接近した時にはもう金色一色に変じて居たみたいでねぇ……」
リエの呟きが響く。
「やっぱり、しゅ、終末の黄金(こがね)? なのかな?」
「そうっ! イオン化された金だけで構成されていたのよデイモスはね…… それだけじゃない、もっとヤバイ物が現れたのよ、でもその時は誰一人その存在を予測すらしていなかったの……」
ここまで黙って聞いていたアガリアレプトが質問をした。
「そのヤバい物とは? 一体何なのだ?」
カーリーがゆっくりと答える。
「地球に衝突したデイモスから生まれた物…… それはストレンジ・レット、全てを終わりにする奇妙な粒よ」
ここまでアガリアレプト以上に聞き手に徹していたコユキが思わずと言った感じで呟きをもらした。
「ストレンジ・レット? ですってぇ! そんなのが地球上に存在したら、どうしようもないじゃないのぉ! 超重量物質よ? 金と比べても数百万倍重くて強烈な引力で周囲の物質を引き寄せるのよ! 更に性質(タチ)が悪い事にストレンジ・レットに触れた物質は全てストレンジ・レット化するって言うおまけ付き、チェックメイト、だわね」
善悪が合わせた。
「そうなの? そりゃヤバいでござる! そ、それで、地球はどうなったのでござる?」
「崩壊と凝縮によってクォーク星へと変貌して行ったわ、地球深部を構成していたテイア由来のマントルも砕かれ始めたとき、瀕死のメット・カフーが時空を斬って私と二人、時間を遡及(そきゅう)して五回目の周回に入ったって訳なの」
「なるほど…… メット・カフーってオハバリさんでしょ? レグバは死んじゃったけどオハバリさんは生きていたんだね? 何でだろう、運良くとかギリギリ間に合ったとかって事なのかな?」
このコユキの発言を聞いたカーリーは、レグバ達をジトッと見つめて聞く。
「えっ、まさか言っていないの? アナタ達四柱がどんな存在かって事……」
デステニィーが冷や汗を流しながら答える。
「あー、言ってないな…… つーか聞かれなかったし? みたいな?」
「はぁあぁー」
カーリーは盛大な溜息を吐く。
コユキは善悪と顔を見合わせてからカーリーに聞くのであった。
「レグバさんの存在って何なのん?」
カーリーは顔つきを真面目な物に変えて答える。
「レグバとメット・カフーは地球そのものよ、正確に言えば太古の昔、衝突し混ざり合った二つの天体、ガイアがレグバに、テイアがメット・カフーになったのよ、さしずめ彼等五柱の運命神の言葉はこの星の意思、そう言っても良いのよ」
コユキは思った。
――――この星の意思、ですってぇ! この残念な四人がぁ? はぁ、何だかがっかりだわね…… こんなのが私たちの故郷、地球なのかぁ、メット・カフー、正一さんもアレな感じだしなぁー、ふう、親は選べないって、親ガチャ外れってきっとこんな気分なのね……
「おい今失礼な事考えていただろ、コユキ」
「っ! そ、その声は! ヤバッ」