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孤独

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孤独

3 - 第3話

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2025年06月30日

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コインロッカーに封筒を入れて、指定された番号をメッセージアプリに送った。
「終わりました」


送信のあと、携帯を握る手がほんの少し汗ばんでいた。


ロッカーの扉がカチッと閉まる音。


それだけのはずなのに、スンホの胸には、妙なざらつきが残った。


――俺、いま何してるんだろう。


スンホは思わず足早にその場を離れた。


新宿の雑踏の中をすり抜けながら、誰かに見られている気がして、後ろを何度も振り返った。


ポケットの中で、スマホが震える。


「振込完了。おつかれさん。明日はゆっくり休め。」


その一文に、安心と、わずかな後悔が混ざって押し寄せてくる。


スンホはコンビニに寄り、安い酒を一本だけ買った。


家に戻ると、カーテンを閉めて、ベッドに倒れ込んだ。


財布の中にはさっきの1万円と、昨日の5万円の現金。


借金に比べれば微々たる額。それでも、生活が少しだけ楽になった気がした。


「……あと何回やれば……」


自分に問いかけても、答えはなかった。


数日後、いつもの男からLINEが来た。


「ちょっとだけ、ややこしい仕事ある。来れる?」


場所は池袋。喫茶店の個室席。


スンホが入ると、男は既に座っていた。


その隣には、初めて見る別の男がいた。無表情でスマホをいじっている。


「おつかれ。紹介するわ、こっちウチの“事務”担当。話早いからね。」


男は愛想笑いを浮かべて言ったが、隣の男は一度もスンホの目を見なかった。


「で、本題。」


テーブルにそっと置かれた、何枚かの紙と一つのスマホ。


「スンホ、お前の名義で銀行口座作ってきてくれ。」


「……俺の……名義で?」


「そう。身分証と保険証、持ってるよな? それ使って、ここと、ここの2行。ネットバンキング使えるやつ。」


スンホの喉が、ごくりと鳴る。


「それって、……なにに使うんですか……?」


隣の男が、初めて顔を上げた。


無表情のまま、淡々と答える。


「業務上の処理用。振込元になるだけ。」


それがウソか本当かは、聞くまでもなかった。


「もちろん、報酬はちゃんと払う。1件3万。今日中に5万振り込む。残りは開設完了後。」


スンホは視線を落としたまま、手を握った。


「……口座を……俺が作って、それを……渡すんですか?」


男は軽く笑った。


「“渡す”っていうか、まあ、ログイン情報はウチが管理するだけ。お前は使わないんだから平気。」


スンホはしばらく黙った。


そして、頷いた。


頷いた瞬間、男たちはまるで既にそうなると分かっていたかのように、次の書類を出し始めた。


口座を二つ作った翌日。


スンホは、近所のコンビニで昼飯を買った帰りに、自分のアパートのポストを覗いた。


そこに見慣れない封筒があった。


『〇〇銀行からのお知らせ』


文字を見た瞬間、心臓が一度止まった気がした。


なんでもない。

そう思いながらも手は震えていた。


部屋に戻り、封筒を開ける。


中には、取引確認のハガキと、銀行からの注意喚起が入っていた。


『第三者による不正利用にご注意ください』


それだけだった。


けれど、たった一行がスンホの喉をひりつかせた。


スマホを取り出す。

男からのメッセージ履歴を何度もスクロールした。


ーー大丈夫だ、って言ってた。


「……大丈夫だよな……」


小さく呟く声が部屋の壁に吸い込まれていった。


だが、数日後、スンホのスマホに知らない番号から着信が入った。


画面に『非通知』の文字。


電話は一度切れたが、すぐにまた鳴った。


なんの音もない部屋で、着信音だけがずっと鳴り響いていた。


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