テラーノベル
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#オリジナル
めんだこ
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風が、吹いていた。
さっきまでの激しさが嘘みたいに。
ただ、静かに。
アルトは動けなかった。
その場に座り込んだまま。
フィリアも、何も言わずに隣にいる。
歌の余韻だけが、まだ空気に残っている。
――そのとき。
「……シオン……」
かすれた声が、響いた。
フィリアが顔を上げる。
少し離れた場所。
崩れた地面の中で――
クレハが、膝をついていた。
身体は、ほとんど動かないはずなのに。
それでも、無理やり起き上がっている。
「……シオン」
もう一度、名前を呼ぶ。
返事は、ない。
当たり前なのに。
「……ねえ」
震える声。
「どこに行ったの?」
沈黙。
風だけが答える。
クレハの肩が、小さく揺れる。
「……また」
ぽつりと零れる。
「また、ひとりで……」
唇を噛む。
血が滲む。
「シオンは、いつもそう」
笑おうとする。
でも、うまくいかない。
「何も言わないで」
声が、崩れる。
「ひとりで全部抱えて……」
拳が震える。
地面に、爪が食い込む。
「……私には、何もくれなかった」
その言葉は、責めているようで。
本当は――
寂しさだった。
ゆっくりと。
クレハが立ち上がる。
ふらつきながら。
その目は、どこか遠くを見ていた。
「……じゃあ」
小さく、呟く。
「シオンがいないなら……」
その手に、光が集まる。
刃が、形作られる。
でも、それは――
誰かに向けられていない。
自分自身へ。
フィリアの目が、見開かれる。
「……やめて」
一歩、踏み出す。
クレハは、微笑む。
壊れそうな笑み。
「だって」
静かに言う。
「もう、意味ないでしょ」
その言葉は、空っぽだった。
「守る人も」
「隣にいる人も」
「全部、いなくなった」
刃が、胸へと向けられる。
「だから――」
その瞬間。
「だめ!!」
光が、弾ける。
フィリアが、クレハの腕を掴んでいた。
刃が、止まる。
あと少しで届く距離で。
「……離して」
クレハが言う。
力は弱いのに。
その声は、どこか強い。
フィリアは、首を振る。
「離さない」
「絶対に」
クレハの目が、わずかに揺れる。
「……なんで」
フィリアは、まっすぐに見る。
「ひとりじゃないから」
その一言。
クレハの呼吸が、止まる。
「……何言ってるの」
かすかに笑う。
「もう、いないよ」
フィリアは、強く首を振る。
「いる」
「ここに」
自分の胸を指す。
「ちゃんと、残ってる」
クレハの瞳に、涙が滲む。
「……残ってるだけじゃ、意味ない」
フィリアは、少しだけ近づく。
「意味は、これから作るの」
静かな声。
でも、揺るがない。
「シオンがいなくなったから終わりじゃない」
「シオンがいたから、続くの」
クレハの手から、力が抜ける。
刃が、崩れる。
光になって、消える。
「……ずるい」
ぽつりと、零す。
「そんなこと、言われたら……」
涙が、溢れる。
「……死ねないじゃない」
フィリアは、少しだけ息を吐く。
「うん」
小さく、頷く。
「死なせない」
クレハの膝が、崩れる。
そのまま、フィリアに支えられる。
声を殺して、泣く。
壊れるみたいに。
でも――
今度は、ひとりじゃない。
その頃。
別の場所では。
リュシアとノクスが、構えていた。
目の前には、変わり果てた花人たち。
動きが止まることなく、襲いかかっていたはずの存在。
――が。
「……止まった?」
ノクスが呟く。
花人たちの動きが、ぴたりと止まっていた。
まるで、糸が切れたように。
リュシアが、ゆっくりと武器を下ろす。
「……シオンが……」
静かに言う。
その声には、理解と――
少しの寂しさ。
花人たちは、その場に立ち尽くしたまま。
動かない。
敵意も、意思も、何もかもが抜け落ちたように。
風が吹く。
戦いの音は、もうどこにもない。
終わりは、唐突だった。
でも。
完全な終わりじゃない。
何かが、確かに残っている。
壊れたまま。
それでも――
続いていくものが。