コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……もっとも君が、私に襲ってほしいのなら、そうして差し上げますが」
「いいえ…!」
からかうような軽口に、苛立った声を上げ、ベッドから身体を起こそうとすると、
「……そんなに簡単に、私の元から帰れるとでも思っているのですか?」
突然に、両方の手首を上から強い力で押さえ込まれた。
「……離してくださいっ」
必死に抵抗をして、ようやく片手だけを振りほどく。
「この私から逃げようとする女性がいるなど……信じられないですね」
さも不機嫌そうに政宗医師は眉間にしわを寄せ、かけているメガネを、ほどかれた方の手で押し上げると、
「……私にこうされたいと思う女性の方が多いのに、君はそうではないなど……。一体、私の何が不服なのですか?」
目を訝しげにすっと細めた。
「不服とか、不服じゃないとかではなく……」
微塵のコンプレックスも感じさせない自惚れた口ぶりに、反論をしようとするけれど、
「……こんな風に無理やりされるのは、好きじゃないです……。……別にあなたでなくても、他の誰でも……」
見つめる冷たくも美しい顔から目が離せなくなって、つい曖昧な言い方になる。
「……では私だから、嫌なわけではないと? そう取っても、よろしいのですね?」
言いくるめるかのような問いかけに、何も答えられずに口ごもっていると、
「……ならば、キスぐらいはさせてもらっても、かまわないですよね……」
政宗医師がそう低く呟くや、薄い唇を近づけ、
「んっ…」
濡れた舌の先で、唐突に私の唇を割り開いた。
そうして舌でこじ開けられた口の中に、不意に何かが入れられた気がして、
「……何を、飲ませたんですか?」
唇が離れた瞬間、咄嗟に手で口元を押さえた。
「……誘眠剤です。……ごく弱いものなので、どうかご心配なく……」
政宗医師が、ゾクリと震えるような冷ややかな笑みを浮かべる。
「心配なくって、どうしてそんなこと……」
飲まされた薬を吐き出そうとする私に、
「ああ、一度飲めば即効で溶けますので、吐くことは不可能です。ちょっと身体の動きが鈍くなる程度で、あまり害はありませんから」
政宗医師は、相変わらず何の感情も読み取れない、冷たく取り澄ましたような顔つきで、そう淡々と告げた──。