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『俺とりもこん、どっちとならキスできる?』


あの時なんでそんなこと聞いたんだよ、バカ。

思い出しちゃったじゃないか。

ああ。

俺は頭がおかしくなったんだ。

だって、何だか今日は口元に視線が行ってしまう。

欲求不満?

いや、違うよな。

キス、してみたいってどんな欲求だ。

だって、俺は男だし相手も男だ。

しかも同じグループで支え合わなきゃいけないゲーム仲間で、チームだ。

乱すな。

馬鹿なこと考えたらダメだ。

ああ。

でもクラクラして考えがまとまらない。


「しゅうと?」

「ん?なに?」

「なんか、顔赤くないか?」

「……そうかな?」

「うん……目のところ擦った?」

「いや……別に……」


ふうはやが心配そうに俺を覗き込んだ。

大きめの瞳がキョロキョロと俺の顔を観察して、左右に揺れる。

綺麗だな。

宝石みたいだ。


「綺麗だ」

「ふえ!?」

「眼、綺麗だね」


両頬に手を添えて、宝石みたいな瞳を観察する。

オパールみたいに揺れて水面みたいだ。

そこにするりと紛れ込んでくる絹みたいな銀髪。

かざねだ。


「ちょちょ……しゅうと?どうした??はいはい、ふうはやは離れて離れて」

「ええええええっ」

「うるさいうるさい。はい、ふうはやのターンは終了でーす」

「なんでだよっ!おかしいだろ!」


眼の前に滑り込んできたサラサラとした髪に目を奪われる。

光を反射するそれは銀糸だ。


「かざね……?髪、綺麗だな」

「しゅうと……」

「触らせて」


揺れる銀糸に指を絡める。

少しピンクがかかったそれは、つるつるサラサラと指通りが良くてずっと触っていたいくらいだ。

毛先から指を滑らせて根元の方へ差し入れると温かくて、気持ちが良い。

あれ、俺の手が冷たいのかな?

片手だけじゃ我慢できなくて、もう片方の手も根元の方へ差し入れる。

やっぱり温かくて気持ち良い。

引き寄せて、抱き締めても良いかな?

そんな言葉がよぎった。


「かざね、そこまで」


******


思ったより低い声が出た。

かざねの頭を引き寄せるしゅうとの手首をやんわりと取り上げて、今にもキスしそうな距離を引き離す。

もう、こんな役目は柄じゃないのに。

でも我慢なんて出来るはずもなく、かざねを引き剥がし、ふうはやを笑顔で睨みつける。


「やってんねぇ?抜け駆けはしない約束じゃなかった?」

「……今のは無理ゲーでしょ」

「しゅうとの色気がすごすぎて思わず見入っちゃった……」

「りもこん……?」

「しゅうと、ちょっと落ち着こうか?」

「ん?なんで?」

「そう簡単に触らせちゃダメでしょ」


不思議そうに俺を見上げたしゅうとは幼い雰囲気をまとっていて不安になる。

どうしたんだよ、本当に。

優しく微笑みながら幼子を諭すように声をかけたが、反応は良くなかった。


「……なんでそんなこと、りもこんに言われなきゃいけないんだ?俺は触っちゃいけないって言うのか?俺のこと嫌いなのか?」

「ちょ……そう言うことじゃないし、しゅうとのこと嫌いじゃないよ?」

「じゃあなんで?」

「なんでって……それは……」

「しゅうと、りもこんはお前のこと思って言ってくれてるんだよ。な、かざね?」

「んーまあそうね」

「りも、悪かったよ。ちょっと近づき過ぎたな」

「……分かれば良いよ」

「機嫌なおせよ!しゅうと、りもこんも触って欲しいってさ」

「え!?ちがっ……いや、違うわけじゃないけどっ……!俺はそんなつもりで言ったんじゃないしっ」


完全に会話から置いて行かれて不貞腐れていたしゅうとはふうはやの言葉に頬を膨らませ俺を睨みつけた。

怒っていても可愛い……じゃなくて、これはどうやって機嫌を直してもらうか。

しゅうとが怒ることってマジで無いから正直、分かんない。


「あー、しゅうとさん?」

「……なに?」

「あの……機嫌直してよ」

「……ぎゅって、してくれたら良いよ」

「んえ?」

「ぎゅってしてよ」


しゅうとの低くこもった声で伝えられたソレは普段のしゅうとではあり得ないくらい甘えた声で、りもこんは驚きを隠せずに半歩後退った。

ふうはやとかざねが何やかんやと騒ぐ声が意識の遠いところで聞こえる。

なに、その、ぎゅってしてって!!

可愛すぎるでしょ!?

おもむろに両腕を広げるとそこへしゅうとが滑り込んできた。抱き締めた温かさに目眩がする。

上を向いたしゅうとと目が合う。

しゅうとが少し恥ずかしそうに笑った。


「りもこん、ちゅーは?」

「……へ?」

「ちゅーしたい」


は?

え?

なに!?

あまりの衝撃に脳が身体ごとフリーズする。

腕の中にしゅうとがいることですら中々に衝撃的な視界なのに、その上に「ちゅー」って何!?


「ち……ちゅーって……キス、のこと?」

「……うん」

「あの、僕と、ですか?」

「うん……」


鼻血出そう。

なんだこれ、夢か?

キス待ち顔のしゅうとを眼の前に、身体が馬鹿みたいに震える。

え?本当にするよ?

しゅうとから誘ってきたからね?

良く分からんけど、据え膳食わぬは男じゃないって言うもんね?

いただきま、


「だぁあめぇだああああっ!!!!!」


据え膳を横から掻っ攫ったのはふうはやだった。

腕の中にいたはずのしゅうとはふうはやの腕の中で目を白黒させている。


「ちょっ!コラふうはや!返せっ!!」

「駄目に決まってんだろっ!りもこんお前!何しようとしてんだ!」

「キスだよキスー!!しゅうとがご所望だったの聞いてたでしょ!?」

「〜〜〜っ!でも駄目だ!かざね!二人でしゅうとを守るぞ!」

「おう、任せろ!」


奪い奪われ、そうしているうちにしゅうとの身体から力が完全に抜けていることに気がついたかざねが焦った声をあげた。


「え?しゅうと!?」

「おい、しゅうと?あああっ……ヤバいって!しゅうと、気絶してる……!!」

「なんか顔色すごい悪そうだよ!?」

「しかも、身体めちゃめちゃ熱いじゃん!りもこん、なんで気づかなかったんだよ!」

「え?熱があるってこと?」

「そんなん気がつけるワケないよ!あの状況だよ?無理だって!」

「そんなこと言ってる場合じゃない!しゅうとを寝かさないと!」


かざねの的確な指示でしゅうとを寝かし付け3人でその寝顔を覗き込む。

その眉間によった皺が体調不良を物語っていた。


「まあ、とりあえず何とかなって良かった」

「結構熱高かったね。いつからあったんだろ?」

「……今日、様子がおかしかったから朝からずっとあったのかもなぁ」

「……チッ。惜しいことした」

「りもこん……お前……」

「だって、しゅうととキスだよ?事故だったとしてもしたいじゃん」

「そりゃあなぁ。って言うか、みんなしたいよ。りもこん、お前だけじゃない」

「あー、ね?本当にね。今度頼んでみる?しゅうとに直接さ」

「……俺もお願いしてみよ」

「……俺もする……」



しゅうとの目が覚めるまで横に張り付いていた3人は煩悩を溜め込みはしたが、互いに牽制しあい寝込みを襲う事態にはならなかった。

愛されは赤のひと

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