テラーノベル
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都会の喧騒が遠くに聞こえる夜。
ぼんじゅうるは自宅のベランダで独り、夜風に吹かれていた。
指先には暗闇の中で赤く光る炎。
ふう、と吐き出した煙が冷たい空気に溶けては消えていく。
「ぼんさん、いますー?」
背後のガラス戸越しに聞き慣れた少年のような声が響く。
「おー、いんぞー」
ぼんじゅうるは振り返らずに短く応えた。
ガラガラと扉が開く音が響く。
「はぁ……また煙草吸ってるんですか?」
呆れたような、それでいてどこか慈しむような溜息。
おんりーは小言を言いながらも慣れた様子でぼんじゅうるの隣に並んだ。
ベランダの手すりに薄い腕を預け、夜景を眺めるおんりー。
隣に立つと、明らかな体格の差が浮き彫りになる。
「(……やっぱり、ちっちぇな)」
ぼんじゅうるがおんりーを見下ろすと、その身長差は優に頭一つ分以上はあった。
おんりーがぼんじゅうるの顔を確認しようと顔を上げると、必然的に見上げる状態になる。
「身体に悪いですよって、何度も言ってるのに」
眼鏡の奥の瞳が、じっとぼんじゅうるを捉える。
彼の顔は眉間に微かな皺を寄せ、少しだけ不満げに唇を尖らせていた。
ぼんじゅうるは灰を落としながら、思わず小さく苦笑した。
「ったく、おんりーは小言が多いな」
ぼんじゅうるは呆れ半分、可愛さ半分といった風に低く笑った。
彼は最後の一吸いを深く肺に入れ、ゆっくりと煙を吐き出すと、残り少なくなった煙草を灰皿で丁寧にもみ消した。
ジュッ、と微かな音を立てて火が消える。
「……口寂しいんです? ぼんさん」
「ははっ、そうかもな」
ぼんじゅうるは煙の消えた灰皿を見つめたまま笑った。
「別に、他にいくらでもありますって」
おんりーが、手すりに預けていた身体を少しだけぼんじゅうるの方へと向ける。
「あ?」
ぼんじゅうるが眉を上げ、聞き返す。
視線を落とすと、そこにはやはり自分を見上げているおんりーの顔がある。
「タバコじゃなくても、気を紛らわせるものなんて……いくらでもあるじゃないですか」
おんりーの声は消えてしまいそうなほど静かだったが、ぼんじゅうるの鼓動を跳ねさせるには十分すぎるほどだった。
「………何してくれんの?」
ぼんじゅうるは、わざととぼけたような低い声で問いかけた。
すぐ目の前にあるおんりーの瞳を覗き込む。
「……分かってるくせに」
「さぁな? 俺にはさっぱり」
意地悪く笑いながら、ぼんじゅうるは手すりに背を預け直した。
自分からは動かない。
すると、おんりーは小さく息を吸い込み、ぐっと爪先立ちになった。
細い指がぼんじゅうるのシャツの襟元を掴み、強引に引き寄せる。
互いの唇が触れた一瞬、時間が止まる。
おんりーがゆっくりと踵を下ろし、唇が離れていく。
「…………煙草の味がします」
少しだけ潤んだ瞳で、おんりーが恨めしそうに呟く。
ぶれん
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「あははっ、だろうな」
「……気、紛らいました?」
おんりーの頬は薄暗いベランダでも分かるほどに赤く染まっている。
「ああ。……バッチリだわ」
ぼんじゅうるは大きな手を伸ばし、おんりーの柔らかな髪をわしゃわしゃと子供をあやすように掻き混ぜた。
乱暴なようでいて、そこには隠しきれない優しさが滲んでいる。
「で? 結局、なんの用で来たの。まさか、これしに来ただけじゃないだろ?」
「あ、そうでした。話したいことがあって」
髪を直しながら、おんりーはいつもの落ち着いたトーンを取り戻した。
「次、出かける所なんですけど……」
少し肌寒いベランダで二人は肩を並べ、尽きることのない話をいつまでも続けていた。
コメント
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最高です✨️