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ジョゼ美味そう
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第1話
不器用な君
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薄暗い部屋だった。
洞窟の中とは違って、外の音はほとんど聞こえない。
代わりに、微かに石と鉄の匂いが残っている。
……ここ、あの人の部屋だ。
ぼんやりした意識の中で、それだけ理解する。
体が重い。
息を吸うたび、胸の奥が少しだけ苦しい。
「……起きたか」
低い声。
ゆっくり目を開けると、すぐ近くにあなたはいた。
「……っ」
思ったより距離が近くて、少しだけ体が強張る。
「まだ動くな」
短く言われて、言葉が詰まる。
「……大丈夫、だから」
そう言おうとしたけど、声がうまく出ない。
ノートンは少しだけ眉をひそめると、
私の口元に布を当てた。
「吸いすぎだ。喋るな」
「……」
反論しようとして、やめる。
正直、少し苦しい。
「……なんで」
やっと絞り出した声。
「なんで、助けたの」
自分でもよく分からない質問だった。
あの場所で、見捨てられてもおかしくなかったのに。
君は少しだけ視線を逸らす。
「……放っておく方が面倒だ」
そっけない答え。
でも、さっきの洞窟で見た横顔とは少し違った。
「……優しいね」
思わずそう言うと、
「違う」
即答だった。
少しだけ、笑ってしまう。
「……じゃあ、お節介」
「……うるさい」
短く返される。
けど、その声はさっきより少しだけ柔らかかった。
ぼんやりする視界の中で、
水を用意してくれているのが見える。
「飲めるか」
「……うん」
手を伸ばそうとして、上手く力が入らない。
そのまま落ちそうになった手を、君が掴む。
「……無理するな」
そう言って、少しだけ支えてくれる。
距離が、近い。
さっきよりも、ずっと。
「……名前」
ふと、思い出したように口にする。
「まだ、聞いてない」
君の手が、一瞬だけ止まる。
「……メル・ベネット」
小さく名乗る。
「あなたは?」
少しだけ間があって、
「…ノートン・キャンベルだ」
「…ノートン」
呼んでみる。
特に意味はないのに、
その名前を口にすると、少しだけ落ち着いた。
「…なんだ」
ノートンは、横目でこちらを見つめる。
「…ありがとう」
今度は、ちゃんと言えた。
ノートンは少しだけ目を細めて、
「だから、礼はいらない」
そう言った。
けど______
その手は、さっきより少しだけ優しかった。
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Thank you for reading. ෆ