獣族と同じく、獣亜人族の尾や耳は、顔や言動などよりも感情や心情に素直だ。
もちろん、強く意識すれば制御は可能だが、意識しない限り、“隠し事”はしない。
たとえば、尾は、――気になる事がある時はぴんと立ち、――警戒心が高まっている時にはぶわりと毛が逆立つ。
そして、――何かしらの刺激を感じている時は、びくりと痙攣する事もある。
また、刺激の度合や種類によっては、根元からしなるように痙攣してみたり、先端だけをぴくりぴくりと震わせてみたりと、様々な反応を見せる。
そんな彼らの尾だが、実は、何かを紛らわそうとする時には、床に座っていれば床をたしりたしりと叩くし、ベッドの上に居る時などは、ベッドのシーツをたしりたしりとしたりする。
たとえば、そう。
今の、桔流のように――。
― Drop.011『 WhiteRum〈Ⅰ〉』―
(――息、詰めちゃうクセがあるんだな)
太く、触り心地の良い桔流の尾が、小さく痙攣した後、ぽすりとシーツを叩く様を横目に、花厳は思った。
尾の先端がダークグレーに染まった桔流の尾は、シーツの上でもよく目立った。
そんな桔流の尾は、現在、桔流の意志に関係なく“勝手に動いている”。
桔流や花厳達の尾や耳は、感情や身体状況に従い、勝手に動くのが常だ。
無論、神経はしっかりと通っているため、触れられれば分かるし、つねられたり踏まれたりすれば、もちろん痛い。
ただ、比較的、耳よりも尾の方が自由気ままに動く事が多かった。
「ん……っ」
そして、今の桔流のように、強い興奮や刺激や快楽に晒されている時などは、特に制御がきかない。
そのような事もあり、先ほどから桔流の尾は、桔流が快楽を凌ぐ度に、大きく振れてはぽすりとシーツを叩き、その後横ばいに動き、シーツに新たな流線を描く――という動作を繰り返していた。
つまり、尾の様子を見れば、持ち主がどのような状態であるのかもよく分かるという事だ。
そのため、花厳は、自身が何かする度に大きく反応する桔流の尾の様子も、大いに楽しんでいた。
「桔流君。――かなり敏感だね。――凄く可愛い」
「んン……」
花厳が桔流と繋がっているのは、未だ“指だけ”だった。
しかし、桔流は元より、随分と感度の良い体質だったようで、指を巡らせるだけでも、桔流は過敏とも云えるほどの愛らしい反応を見せた。
「ここ。特に好きだね」
「はぁ……あ……っ」
桔流は、花厳の指で奥を擦りあげられると、背を反らせ、縋るようにシーツを乱し、甘い吐息を漏らす。
「ン……――」
そんな桔流だが、その濡れた唇から、甘い音がつい溢れ出る度、口を引き結んだり、自身の手を添えたりしていた。
どうやら桔流には、“声を出さないようにするクセ”があるようであった。
恥ずかしいのか、単純にクセなのかは分からないが、花厳はそんな様子も愛おしく感じていた。
しかし、せっかく二人きりなのだから、たっぷりと桔流の“声”を聴きたいというのが、花厳の本音だった。
そんな桔流の声は、最初こそ控えめで小さな声だったが、今はすっかりと高く、可愛らしい声をこぼすようになっていた。
だからこそ、花厳は、その愛らしい声を、抑える事なく存分に聴かせてほしかった。
「――大丈夫。隣に聞こえたりする事もないから。抑えなくていいよ」
「あっ、ぁっ……でも……」
「大丈夫だから。――聴かせて」
そんな花厳は、ひとつ囁くと、桔流を煽り立てているのとは反対の手で、桔流の右手を捕えるなり、首筋に舌を這わせ、犬歯をかすらせながら食むようにした。
「んン……ッ、――あ、ぁっ……あっ……」
それと同時に、奥から手前にゆっくりと指を動かしてやると、背を反らしながら、律動に合わせて桔流は腰を揺らす。
「花厳さ……、それ、……あっ……ぁ……」
「ん? こうされるの、好き?」
「んん……好き……、あっ……ンぅ……」
花厳の律動に踊らされながら、桔流は甘えるように甘美を紡ぐ。
(シてる時。こんなに素直になっちゃうとは思わなかったな)
「は……んン……っ」
そんな桔流は、快楽に甘やかされながら、桔流に寄り添うようにその身を横たえている花厳の肩口に顔を埋めると、縋るように花厳の服の胸元をぎゅっと掴んだ。
花厳は、それに目を細めると、短く情欲の息を吐く。
(素直な君も――)
「――可愛いね」
花厳は、それからしばらくの間。
酷くゆったりとした律動で、じっくりと、ひくつく熱を味わいながら、桔流を悦ばせた。
花厳がこれまでに見てきた桔流はといえば、焦りを見せる事などほとんどない、――その美しい外見に見合った、落ち着きと余裕のある姿ばかりだった。
だが、今、花厳に縋りつくようにして快楽に啼く桔流は、その普段の面影と完全に乖離している。
熱に浮された瞳に蕩けきった表情――。
欲に濡れた唇に淫靡に誘う舌――。
余裕なく乱れた呼吸に、情欲を駆り立てる甘い声――。
じんわりと湿った色白な肌に――、刺激に過敏すぎる反応を示す、火照りを帯びた身体――。
花厳は、普段の桔流とは大きく異なるそのすべての様相に、酷く煽り立てられていた。
(いつまでも見ていたい――)
桔流を悦ばせながら、花厳は、その魅惑的過ぎる光景を堪能し、そんな事を思っていた。
だからこそ、花厳は、桔流には気付かれないよう、前戯を長引かせる工夫を施したりもしていた。
「はぁ……、んン…………」
それゆえか、口にこそ出さないが、桔流は、さらに強い刺激を強請るような仕草を見せ始めた。
そんな桔流は、花厳の男らしい二本の指を受け入れたまま、ひとつやんわりと腰を揺らすと、甘えるように花厳の名を呼ぶ。
「ン、花厳さ……」
「うん……?」
花厳は、それに愛おしげに応じると、ひとつ、額に口付けるなり、濡れた唇を食んだ。
そして、その隙間から舌を割り込ませると、桔流の舌は、花厳の舌に大人しく絡めとられた。
「んぅ……ん……」
桔流は、その深い口付けに小さく吐息を漏らし、舌をなぞられる度、腰を揺らした。
その中、花厳の指を咥え込んだまま腰を揺らせば、当然、それが快楽を生む。
そうして、自分で腰を揺らしていながら、その刺激で甘い声を漏らし、腰をひくつかせる桔流は、花厳の情欲を大いに煽った。
そんな花厳の情欲は、一刻も早く、桔流ともっと深く交わりたいと花厳を急き立てていた。
だが、
(まだ、もう少しだけ……)
花厳は、まだこの時間を終わらせたくなかった。
実のところ、花厳は、既に、わずかに痛みを感じるほどには昂ぶっていた。
しかし、次の段階に入ってしまえば、終わりはすぐに来てしまうかもしれない。
(まだ挿れてもないのに、桔流君はこんな状態だ……)
そんな桔流と次の段階に入ったとしたら、文字通り“入った瞬間”に終わってしまう可能性すら考えられる。
(桔流君も、もしかしたらもう欲しいかもしれないけど)
できるだけ長く、桔流のこの姿を見ていたいのだ。
「はぁ……、ん……、花厳さん……」
「なんだい」
だが、そんな花厳の我儘は、幾度目かの長く深い口付けを終えたところで、仕舞いとする事となった。
「………………」
花厳は、桔流のその濡れた瞳が、何を求めて自分を射抜いているのかを察した。
(あぁ。こんな顔をされたら、流石に我儘は続けていられないな……)
そして、花厳が心の中で苦笑すると、桔流は蕩けた唇と舌を動かし、音を紡いだ。
「花厳さん……もう……」
熱に浮され、艶を帯びたその声で、桔流は花厳に強請る。
「――もう、欲しい?」
花厳はそれに目を細め、一段と低くなった己の声で桔流を煽る。
「――……」
すると、桔流は押し出すようにして短く息を吐くと、目を細めた。
今の桔流には、花厳の低い声すらも、刺激になるらしい。
桔流は、そんな耳への刺激を受け流すと、改めて音を紡いだ。
「――……欲しい……花厳さん。――もう……、挿れて……」
そんな短い嘆願でも、花厳の情欲を駆り立てるには十分だった。
花厳はひとつ目を細めると、ゆっくりと紡いだ。
「……分かったよ」
すると、その声に煽られてか、桔流の蕩けきった熱が、花厳の指をねっとりと締め上げた。
花厳は、その熱を宥めるようにして、指を根本まで熱に押し挿れると、そのまま手前から奥までを同時に拡げるようにして、クチ周りをなぞっていく。
「あ、あぁ……あ……」
「もう、大分馴れたかな」
そして、花厳は、桔流が背を反らせながら善がったのを一目すると、今度は少し引き抜き、熱の中で二本の指を開いた。
「ん、ぁ……っ」
「うん。――大丈夫そうだね」
そんな二本の指にも抵抗なく従うようになった様子を認めると、花厳は、今一度、その指を桔流の熱の奥まで納め、
「いい子だね」
と言うと、数回ほどねっとりとした律動を行い、その熱に褒美をやった。
「は、花厳さ……、あぁ……あ……ッ……ンん……」
すると、油断していたのか、桔流は花厳に縋りつくようにして善がった。
「うん。よしよし」
花厳は、そんな桔流の頭を優しく撫でると、
「じゃあ、抜くね」
と、言うなり、桔流からゆっくりと指を引き抜いた。
「は、ぁ……、んン……」
桔流は、引き抜かれていく最中も腰を揺らし、甘く啼いた。
花厳はそれに、本能が嬲られるのを感じた。
「はは。今の時点でこれだけ敏感だと、この後がちょっと心配だね」
「んん……」
そんな花厳が、気を紛らわせるために言うと、桔流は、駄々をこねるように花厳にすり寄った。
「うん。可愛いね」
花厳は、その様子にも愛らしさを感じ、ひとつそう言うと、
「じゃあ――」
と続け、桔流の両脚にゆったりと割り入ると、次いで、熱を持った桔流の昂ぶりをやんわりと扱いてやる。
「ん……」
桔流は、その刺激にひとつ腰を浮かせる。
そんな桔流を楽しむと、花厳は自身の昂ぶりを晒し、桔流の昂ぶりにあてがう。
すると、花厳が己の昂ぶりを晒すまでの一連の様子を熱っぽく眺めていた桔流が、ひとつ息を呑んだ。
その桔流の様子にも目を細めつつ、花厳は、何を云うでもなくズボンのポケットから小さな包みを取り出す。
そして、一度身を離し、桔流の太ももをやんわりと撫でながら、花厳がその包に歯を立てると、
「――……ない」
と、少々焦りを含んだ桔流の声が聞こえた。
つい、桔流の美しい肌に見惚れていた花厳は、
「ん?」
と言って首を傾げ、桔流を見た。
すると、桔流は、やんわりと上半身を起こすようにして言った。
「……いらないです……しなくていい」
花厳が歯を立てていたのは、避妊具の包みだった。
「え、でも」
花厳は、しばし戸惑う。
確かに、男同士の行為では、まだ子を授かる事はできないし、体質上問題がなければ、腹の中に精を注がれても平気ではあろう。
また、性に関する病についても、定期的な検査を受けているため、互いにクリアである事も分かっている。
だが、だからと云って、初夜から“ナマ”で――というのは、流石の花厳も気が引けた。
だからこそ、花厳は何を云うでもなく、その包みを取り出したわけなのだが、
「やです。――そのままがいい……」
と、桔流は懇願した。
花厳は、しばし迷いながら言う。
「桔流君。――それは、俺としてもすごく魅力的なお誘いだけど……。――でも、俺、今日は外に出してあげられないと思うから……」
桔流は、そんな花厳の左脚に手を添えると、たゆんだズボンをきゅっと掴み、
「いいです……。外になんて出さなくていい……」
と言い、身を起こした。
そして、桔流は、そのまま花厳の真正面でぺたんと座ると、
「桔流君……」
と、戸惑う花厳に構わず、花厳の昂ぶりをやんわりと両手で覆い、花厳を下から見上げるようにして言った。
「お願い。花厳さん。それ。しないでください。――俺、花厳さんの、全部、直接、中に欲しいです……」
そんな桔流に、思いがけず奉仕される形となった花厳は、
「でも……、ううん……――」
と、唸ると、苦笑しつつ桔流の髪を撫でた。
桔流は切なげな表情で、今一度、
「花厳さん……」
と、懇願した。
(困ったな……)
恋愛のみならず、情交においても、それなりに経験豊富な方ではあった花厳だが、交わりの中でここまで翻弄されたのは、これが初めての事であった。
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