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ぐぅ、と腹の虫が鳴く。時計を見ると深夜に近い時刻を指していた。
「はぁ〜…」
ノートPCから目を離し、大きく伸びをする。固まった背中や腰辺りが解放されて気持ちがいい。
こんな時間に空いてる店は…少し胃に負担がかかりそうなファストフードか、アルコールを提供するバーくらいか。
コンビニで済まそうかなと考えていると、
「だん君、いるか?」
ノックと同時に執務室のドアが開く。
「市長、いらっしゃったんですか」
スケジュールは、夕方退所だったはず。
「いや帰ったぞ。ひと仕事終えて、ここを通ったら明かりが見えたから」
返事をしようとしたら、再びぐぅと腹が鳴った。
「!」
「…食ってないのか、まったく」
大きなため息をついて、こちらにやってくる。
バンッとPCを閉じると、
「ほら、行くぞ」
「えっ」
「今日の業務は終いだ、行くぞ」
スタスタと執務室から出て行く市長の後を追うため、手早く片付けて外に出ると、どこかに電話していた市長と目が合う。
「車を出せるか?」
「も、もちろん…」
向かった先はミンミンボウ。店内にはミンドリーさんが待っていた。
「いらっしゃい、おつかれさまです」
「軽めのものを頼む」
テーブル席に促され、先に座った市長の対面に何となく座った。
「あ、あの」
「そうだなぁ、中華粥はどうです?」
「それで頼む、私はアルコールをもらえるか」
「はい」
口を挟む間もなくオーダーが決まり、ミンドリーさんはキッチンへと下がっていった。
「市長」
「何だ」
「お店、開けさせたんですか?」
「きちんと相談したぞ、人聞きの悪い」
「だんさん、大丈夫ですよ」
ドリンクとお通しを持ってきたミンドリーさんが笑って答える。
「一時退職や復帰の時、ご迷惑かけちゃったのになかなかお礼言えなかったから良い機会だなって」
「だそうだ」
もらったビールをぐいと飲み、お通しの搾菜に箸をつける市長。
「…」
腑に落ちないけれど、目の前のお茶に手をのばす。
いい香り…飲むと体の芯がじんわり温まっていく。
「はぁ…」
「私にはあれこれ言うのに」
「まぁまぁ、お待たせしました」
ミンドリーさんが市長の小言を遮って、僕の前に中華粥を用意してくれた。
「ある物で作った“風”だけど」
「…ありがとうございます、いただきます」
レンゲで掬うと、途端にいい香りが。口に含むと鶏や貝柱のだしが空っぽの胃へ優しく染み渡っていく。
「おいしい」
「ふふ、よかった」
僕が食べ終わるまで、対面の市長は黙ってビールを飲んでいたが、心なしか口角があがってるように見えた。
…指摘はやめておこう。
「いつもすまないな」
帰りの車中、後部座席の市長が呟いた。
珍しい、と言いかけたが飲み込んで、
「いいえ、こちらこそありがとうございます」
不器用な優しい夜食は、しばらく忘れられない味になりそうだ。
始めはウェスカーとの話にしようと思ったけれど、1番偉いが合うなぁと変更しました。
20日の各視点凄かったですね…21日もきっと素晴らしいRPが観られると思うと今からワクワクします。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。