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気まずい。テオドールは、広間のど真ん中に置き去りにされた形になってしまい、周囲からの視線を一身に受ける。
周囲からは、ヒソヒソと話し声が聞こえる。
痴話喧嘩?やフラれてしまったのかしら?とか……。だから、そんなのではない!と叫びたいが、それはそれで余計に怪しまれそうだ。
テオドールは、嫌な汗が身体に流れるのを感じ、居た堪れなくなり広間を後にした。
外に出て風にあたると、少し落ち着くが、疲労感が凄い。
手短にある椅子に腰掛け、空を仰ぎ見た。
ヴィオラに、会いたい。
無性にそう思った。レナードが現れ、心穏やかにいられなかった。心がざわついた。
ヴィオラは、自分の事を好いてくれている。これは本人から言われて分かっているが、彼女にとっての好きは友人に対する様なものだ。いや、もしかしたら弟によく似た自分を、彼の代わりの様に感じているのかも知れない。
それに比べてレナードに対する想いは複雑かも知れないが、確かに異性に対しての想いが含まれている。
ヴィオラがレナードを選ぶとは思えないが、正直、確証も自信もない。
「はぁ……」
溜息しかでない。
「溜息を吐きたいのは、こっちだよ」
「……それは申し訳ないね」
レナードが木の影から、現れる。どうやら彼が先客だったようだ。
「……」
気まずい。沈黙が流れた。レナードは何故だか、テオドールの隣に腰掛ける。
一体何を考えているのか……。
レナードの行動が全く読めない。彼の事は、あの時少し調べた。性質的なものは、利己的で、自由奔放。頭はかなり良いようだが、中身はまるで子供のようである。基本はどの様な事も卒なくこなし、出来ない事はないらしい。
先程本人も「僕に不可能はない」と名言を吐いていたし、自覚も自信もある様だ。敢えて苦手な事をあげるならば、他者に合わせる事が出来ないという事だ。
空気を読めないというより、読む気がないと言った方がいい。他人の事などどうでも良く、興味がない。それ故に、簡単に人の命を奪ったのだろうと推察できる。
その彼が、何故だかヴィオラにだけはこれ程までに執着している。わざわざ、こんな場所まで追いかけてくる程に。どうやって来たかまでは知らないが……。
「どうして……ヴィオラだったの」
テオドールは下らない質問をしてしまう。自分だって、理由を聞かれたら答えられない。理由なんて、ないんだ。彼女を初めて視界に入れた瞬間から、彼女が欲しくて、愛おしくて……仕方ないんだ。その事に理由などない。
「愚問過ぎて、答える気も起きませんね」
その言葉でレナードも、テオドールと同じなのだと分かる。
「そうだね。下らない、質問だ」
これ以上、レナードと話したくなくてテオドールは、立ち上がると無言で立ち去った。
レナードからの視線を背に感じたが、テオドールは無視をした。