テラーノベル
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「まあ……木漏れ日がとっても気持ちよい森林浴スポットですわね」
鬱蒼と繁る大木を見上げ、kanaはうっとりと微笑んだ。
足元では、落ち葉の踏み心地に少し戸惑いながら、マーブルが「プルプル……くぅん」と一生懸命についてくる。
その時である。
「――ちょッ、待ちや!? なんで初期服の【kana】がこんな【迷いの樹海】の奥におんねん!?」
上空の枝葉を大きく揺らしながら、一人の男が豪快に飛び降りてきた。
頭上には複数の武器アイコンがくるくると旋回しており、腰には大剣、背中には大弓、手には魔導書という、カオス極まりない重装備。
彼こそが、7つの職業を目まぐるしく切り替えてソロ攻略に励むガチゲーマー――kagerouであった。
「自分、アカンって! ここ推奨レベル15以上のエリアやぞ!? チュートリアルの街どこ行ったんや!?」
捲し立てるkagerouに対し、kanaは一切動じることなく、優雅に首を傾げた。
「あら? ごきげんよう。お庭の手入れをされている職人様かしら? 変な頭飾り(武器)をたくさんつけて、お賑やかな方ですわね」
「職人ちゃうわ! プレイヤーや! ていうか『お庭』ってなんやねん……! 待て、自分まさか……チュートリアル全スルーでここまで歩いてきたんか!?」
「ええ。あのしつこい案内板さんなら、お断りいたしましたわ」
「全スルーかい!! どんな剛腕プレイやねん……!」
kagerouは頭を抱えた。
普段はノリで配信もやっている彼だが、今は完全なソロでの攻略・検証中。カメラすら回していない完全なプライベート状態だ。それゆえに、目の前の状況に完全に素で困惑していた。
「あー……アカン、ツッコミが追いつかへん。とにかくここ危険やから街に戻――」
kagerouが注意しようとした、その時。
ズゥゥゥゥン……!!
樹海の奥から、地響きとともに巨大な森の凶獣『フォレスト・ベア(LV18)』が姿を現した。
鋭い爪を振り上げ、咆哮をあげる巨体。
「しまッ……! ベアや! 自分、下がっとき! 俺が職切り替えて一瞬で――」
kagerouが前衛職(剣士)にジョブチェンジしようとした、まさにその一瞬前。
「ひやぁっ……! 暴力的な大きなクマさんですわ! マーブルちゃん、お下がりなさい!」
kanaが前に出ると同時に、彼女の足元でプルプル震えていたマーブルが、恐怖の限界に達して――
「きゅ、きゅ〜んっ!!(あざとしすぎる悲鳴)」
パァンッ!! と目に見えない衝撃波(?)が樹海を揺らした。
【固有スキル:あざtoi威嚇(キュン♡)発動】
【敵:フォレスト・ベアに強制デバフ『キュン死寸前(攻撃力99%ダウン/全戦意喪失)』を付与】
「……ガ、ガウ……?(ふにゃあ)」
威圧感たっぷりに立ちはだかっていたはずの巨大ベアが、急に「ぽてん」とお腹を見せて地面に転がり、ドロドロの笑顔(?)でモジモジし始めたのだ。
「………………は?」
剣を構えかけたkagerouの動きが、完全に止まった。
目の前の光景が一切理解できない。
「まあ、反省して甘えていらっしゃるのね。お行儀の悪い子には、お仕置きですわ。……やぁーっ!」
kanaは初心者ナイフを構え、転がっている巨体に向かって一生懸命に「ちくっ」とナイフを刺した。
【ダメージ:1】
【ダメージ:1】
「よしよし、反省しなさいね。……やぁーっ!」
【ダメージ:1】
「な、なんやこれ……なんやこの空間は……!?」
ひたすら「1」のダメージが地道に刻まれていくシュールすぎる光景を前に、kagerouは引きつった顔で固まっていた。
(なんやあのチワワ……!? 吠えた瞬間にベアのステータスがゴミみたいに落ちたぞ!? どんなぶっ壊れスキルやねん!!)
さらに、その横で「やぁーっ!」と可憐にナイフをチクチク突いているド天然なお嬢様。
「自分……いや、kanaちゃん! 自分、自分が今何やってるか分かってへんやろ!?」
あまりのカオスっぷりに、kagerouは頭を抱えながら叫んだ。
「あーッ!! なんで俺、今配信回してへんねん!! これカメラ回してたら絶対大バズりやったのにーーーーっ!目撃者俺一人とか勿体なさすぎるわ!!」
目の前で繰り広げられる「最強デバフ×地道な1ダメージ」という奇跡の爆笑光景を前に、配信者としての血が騒ぎまくって悔しがるkagerouなのであった――!
フォレスト・ベアを「1ダメージ」の地道な攻撃で倒し切った後、頭を抱えていたkagerouさんが急に真顔になって、わたくしの目の前に身を乗り出してきましたの。
「なあkanaちゃん。自分、その画面のメニュー端っこにある『配信開始』ってボタン、見たことあるか?」
「はい? はいしん……? いいえ、見たこともございませんわ。お庭の設備の一種かしら?」
「まあ設備みたいなもんや! ええか、そのボタンをポチッと押すとな、自分とマーブルちゃんの『お庭のお散歩』が、色んな人に見てもらえるようになるんや」
「まあ! わたくしたちの散歩を、他の方々にご覧になっていただけるのですの?」
「せや! でな、このゲームは広いから、これから先、使い方の分からん機能や困ったことが絶対に出てくる。そん時はな、目の前に浮かぶ透明な画面……『コメント欄』にいるリスナー達に聞いてみ? あいつら基本暇人やから、なんでも親切に教えてくれるで。『コメントの言う通りにしとき』ってのが、この世界の一番賢い歩き方や!」
「コメント欄の方々にお聞きする……。まあ、それは頼もしい指南役様方ですこと!」
kagerouさんはどこか遠い目をして「ただし変なヤツの言うことは聞くなよ……まあミラのヤツでもモデレーターに突っ込んどくか……」と何やらぶつぶつ呟いていらっしゃいましたが、わたくしにはよく分かりませんでしたわ。
ともかく、親切なkagerouさんに教わった通り、メニューの隅にある『配信開始』という小さな光るボタンを、指先でそっとタップいたしました。
「ポチッとな、ですわ」
『――ライブ配信を開始しました』
『タイトル:【kana】お父様とお母様のお庭でお散歩ですわ【マーブル】』
次の瞬間、わたくしの視界の端に、透明なガラスのような画面がフワリと浮かび上がりました。
『!?』
『え、誰??』
『初期服のお嬢様!?』
『待って、足元にいるのチワワ??』
『新手のVtuberか??』
「まあ……! お写真と文字が、もの凄い速さで下から上へと流れていきますわ! まるで滝のようですこと!」
わたくしが両手を頬に当てて感動していると、足元のマーブルが「……くぅん」とつぶらな瞳で画面を見上げ、プルプルと可愛らしく首を傾げました。
『文字の滝wwww表現がお嬢様wwww』
『待ってチワワかわいすぎるんだが????』
『天使おる????』
『ここどこ? 樹海?? 初期服で樹海にいるの!?www』
「皆様、初めまして。東雲(しののめ)……あら、ここでは『kana』とお呼びいただくのでしたわね。わたくしはkanaと申します。こちらにおわしますのが、相棒のマーブルちゃんですわ」
「ワンッ(プルプル)」
『挨拶丁寧すぎて草』
『マーブルちゃんwww挨拶できたねwww』
『お嬢様とチワワの組み合わせ尊すぎて死ぬ』
『ていうか何でレベル1で樹海にいるの??? タスキルして!!』
流れる文字の速さに目を丸くしながらも、わたくしはkagerouさんのアドバイスを思い出しましたの。
「ふふ、kagerouさんというお優しい方から『わからないことはコメント欄の皆様にお聞きしなさい』と教わりましたわ。皆様、わたくしはお庭の散歩方法もよく分かっておらぬ若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたしますね」
『kagerouwwwwまた変な逸材拾ってきたなwww』
『任せろお嬢様! 全力で保護(リスナー)する!!』
『わかった、とりあえず右上のメニューからログア――』
『↑騙すなwwwww』
『お嬢様、とりあえずそのチワワを抱っこして見せてくれ!!』
「まあ、マーブルちゃんを抱っこ、ですの? ええ、もちろんですわ!」
わたくしはしゃがみ込み、プルプルと震える小さなマーブルをそっと両手で抱き上げました。
「ほら、マーブルちゃん。皆様にご挨拶ですわよ」
「きゅ~んっ……♪(あざといドアップ)」
『ギャァァァァァァ(キュン死)』
『かわいすぎるうぅぅぅぅぅ!!』
『神配信決定』
『♡ボタン壊れるほど押した』
『わかったお嬢様、指示は何でも聞いてやるからそのまま散歩を続けろ!!』
「あらあら、皆様とってもお優しい方ばかりですのね!」
kagerouさんの仰った通り、コメント欄の皆様はとても親切で頼もしい方ばかり。
わたくしとマーブルは、たくさんの「指南役様」に見守られながら、さらに奥深いお庭(樹海)へと、優雅に一歩を踏み出したのでした。
コメント
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第2話めっちゃ面白かった〜!!😭💕 チュートリアル全スルーのお嬢様と関西弁ガチ勢kagerouさんの凸凹コンビ最高すぎるやろ…! そしてチワワの「あざと威嚇」で強制キュン死ベア、プルプル震えながら生きてて草w 「ちくっ」で1ダメージ地道に倒すの可愛すぎますわね😭 配信開始してリスナーに保護される流れもエモいし、このままお庭の散歩どこまで行くのかもっと見たい〜!! 次話も楽しみに待ってますね⋆♡