テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
kagerouさんに教えていただいた「はいしん」と「こめんとらん」に感動しながら、わたくしとマーブルは鬱蒼とした樹海をのんびりと進んでおりました。画面の端では、相変わらず「かわいすぎる」「天使」「画面からマイナスイオンが出てる」といった温かいお言葉が勢いよく流れております。皆様、本当にお優しい方ばかりですわ。
「ねえ、マーブルちゃん。皆様が『右上のマップを見なさい』と教えてくださいますけれど、緑色の記号がたくさんあって、まるで絵の具をこぼしたみたいで見づらいですわね」
「……くぅん(ブルブル)」
わたくしが頭をかしげておりますと、突然――
**ドォォォォン……!!**
頭上から大きな地響きが轟き、木々が大きく揺れ動きました。
「まあっ! 地震かしら……!?」
「キュンッ!?」
思わずマーブルを抱きしめて見上げますと、樹海の開けた空から、息をのむほど巨大な黒い影が舞い降りてまいりました。
漆黒の鱗、鋭い爪、そして背中には大きな翼――間違いなく、絵本に出てくるような本物のドラゴンですわ!
「まあまあ……! なんて立派なトカゲさんでしょう!」
『トカゲwwwwドラゴンやwww』
『お嬢様逃げて!! それ高レベルモンスター!!』
『あ、待って、背中に誰か乗ってないか!?』
コメント欄が大騒ぎになる中、ドラゴンの背中から「ひょい」と影が飛び降りてまいりました。
着地したのは、全身を厳めしい重鎧で固めた、とても強そうなお方。ですが、そのお顔にはどこか呆れたような、苦笑いが浮かんでおりましたの。
「――こらこら、お嬢ちゃん。ドラゴンば『大きなトカゲ』呼ばわりする人は、初めて見たばい」
どこか聞き馴染みのない、親しみやすい独特なイントネーションの言葉遣い。
そのお方は兜を脱ぐと、ガシガシと頭をかきながら、わたくしたちに近づいていらっしゃいました。
頭上のネームプレートには【m@rio】と書かれております。
「あら? ごきげんよう。あなた様もこのお庭の職人様かしら?」
「職人じゃなかよ、プレイヤーたい。俺はm@rio(マリオ)。……っちいうか、お嬢ちゃん。名前はkanaちゃんかい? kagerouから『やばい新人が樹海に入った』って緊急連絡が来て飛んできたバッテン……ほんとに初期服のままレベル1でうろついとるとね!?」
「まあ、kagerou様のご友人様でしたのね! ふふ、お世話になっておりますわ」
「挨拶は良かとよ! あと、その足元のチワワちゃん……この子が例の『ベアば一瞬で無力化した神獣』かい?」
m@rio様が屈み込み、視線を合わせると、マーブルは「……くぅん」とプルプル震えながらわたくしのドレスの裾に隠れました。
「うわ……可愛かぁ……。うちのドラゴンのガルちゃん(LV80)とは真逆の可憐さたい……」
『m@rioさん登場!!』
『ドラゴンテイマーのトップランカーきたあぁぁ!』
『m@rioさんの博多弁たすかる』
『テイマーの先輩としてマナーを叩き込んでやってくれww』
画面のコメント欄を見ながら、m@rio様はハァと大きなため息をつかれました。
「kanaちゃん、ええかい? このゲーム『セブンスマスター』にはな、色々と『マナー』っちゅうもんがあるんだよ。特にこの【迷いの樹海】は高レベルエリア。初心者ちゃんが丸腰で入ってくると、周りのプレイヤーが心配して胃を痛めるのが一番の『マナー違反』たい!」
「まあ……! わたくしのせいで、皆様の胃をお痛めさせてしまっていたのですの……? それは大変なお行儀の悪さをいたしましたわ……」
わたくしが申し訳なさそうに胸に手を当てると、m@rio様は焦ったように手を振られました。
「あ、いや! 責めとるわけじゃなかよ!? ただね、ゲームの世界には『街』っちゅう安全な場所があって、そこで装備を整えたり、ルールを学んだりするのが基本なんよ。……ほら、マーブルちゃんも不安そうにプルプル震えとるでしょうが」
「マーブルちゃんが……? まあ、本当ですわ。わたくしとしたことが、この子の気持ちに気づいてあげられませんで……」
「ワンッ……(プルプル)」
「よしよし、マーブルちゃん。怖い思いをさせてごめんなさいね」
わたくしがマーブルを抱き上げて撫でてあげると、マーブルはわたくしの腕の中で、ほっとしたように「きゅ~ん」と甘えた声を漏らしました。
その瞬間――。
**【固有スキル:あざtoi威嚇(キュン♡)誤発動】**
「――ッ!?」
パァンッ!! と目に見えない「可憐さの衝撃波」が至近距離で炸裂いたしました。
「ぐはッ……!? な、なんやこの強烈なキュン撃は……っ!?」
直撃を受けたm@rio様が、胸を押さえてガバッと膝をつきました。
後ろに控えていた体長10メートルを超える巨大なブラックドラゴンまでもが、「キュ〜ン……(ふにゃあ)」と翼を力なく折りたたみ、地面にお腹を見せてゴロンと転がってしまったのですわ!
『ギャハハハハハハ!!wwww』
『ドラゴンがデロデロになってて草』
『m@rioさん(LV90)一撃で膝ついてて草』
『これがチワワ(最弱)の力だ!!』
「ま、魔法も使っとらんとに……戦意が……戦意が一切湧いてこん……! ガルちゃんまで骨抜きにされとる……っ!!」
「まあ! m@rio様も、竜さんも、お腹を見せて甘えていらっしゃるのですのね! お庭の生き物さんは、みんな人懐っこくて愛くるしい方ばかりですわ!」
わたくしはほっこりと微笑みながら、転がっている巨大なドラゴンの首元を「よしよし、いい子ですわね〜」と優しく撫でてあげました。
「か、kanaちゃん……頼むけん、早う『街』に移動するポータルを開いてくれ……このままだと俺の胃と理性がもたん……っ!」
プルプル震えるチワワを抱いたわたくしと、デロデロに骨抜きにされたドラゴンテイマーのm@rio様。
コメント欄の爆笑と♡の嵐に見守られながら、わたくしたちの賑やかなお散歩は、さらなる混乱を引き起こしていくのでした。
m@rio様が「もう堪忍してくれ〜!」と泣きそうな顔で出してくださいました、青く光る『移動ポータル』。
「kanaちゃん、この光る輪っかに入れば一瞬で安全な『最初の街』に行けるけんね。……お願いだから早く入って! ガルちゃん(ドラゴン)が未だに『きゅ〜ん』って骨抜きになったまま起き上がらんとよ……っ!」
「まあ、一瞬で移動できる魔法の扉ですの? お庭の設備は本当にハイテクですこと!」
わたくしは抱っこしたマーブルちゃんとともに、お礼を言ってポータルの光の中へと足を踏み入れました。
――次の瞬間。
まばゆい光が収まると、そこは石畳の美しい街並みと、大勢の人々で賑わう大きな広場――最初の街『アルカディア』でしたわ!
「まあ……! なんて賑やかで素敵なお街でしょう!」
『お嬢様、街に到着おめでとう!』
『m@rioさん解放されてて草』
『街でも初期服お嬢様とチワワは目立ちすぎるww』
『あ、なんかヤバそうなサムライがこっち見てないか?』
流れるコメント欄を見ながら、わたくしが「まあ、サムライ様……?」と首を傾げた、その直後でした。
「――お下がり召されよ愚民共ッ!! そこなる可憐なる乙女の道を開けぇぇぇい!!」
**ズバババンッ!!**
広場の人ごみを割るように、一人の美しい女性(?)剣士が、風のような速度で滑り込んできました。
艶やかな漆黒の髪に、鮮やかな朱色の和装袴。腰には身の丈ほどもある見事な日本刀を差していらっしゃいます。
頭上のネームプレートには【Natuki】。
「はぁ……はぁ……! 間に合った……! kagerouの配信を見て飛んできましたわ! 初めまして、kana様……!」
非常に凛々しい美貌……なのですが、なぜかそのお声は、驚くほど重厚でダンディな低音ボイスでしたの。
「あら? ごきげんよう。まあ、なんてお美しいお侍様……と思いきや、とても渋くて素敵なお声ですのね!」
『出たぁぁぁ! ネカマサムライのNatuki!!』
『声と見た目のギャップで脳がバグるwwww』
『サムライ職(LV95)のトップ前衛きた!!』
『声隠す気ゼロで草』
コメント欄が大盛り上がりする中、Natuki様はガタガタと全身を震わせ、その場にバッと膝をつかれました。
「くっ……! 直視できない……! なんという愛くるしさ、なんという純粋無垢な存在……! 配信越しでも破壊的だったが、生でお目にかかると命がいくつあっても足りん……っ!」
「まあまあ、大丈夫ですか? お顔が真っ赤でいらっしゃいますわ」
「 kana様ぁぁぁっ!!」
突然、Natuki様が両手を天に掲げて叫びました。
「今日、この瞬間より! このNatukiの刀と命は、すべてkana様とマーブル殿のために捧げます! 貴女様に立ちはだかるいかなる障害、敵、そして無礼者めらも、この身を肉壁として粉砕してみせましょうぞ!!」
「まあ! わたくしの肉の壁……? いいえ、そんなお命を捧げるだなんて物騒なことは……」
わたくしが困惑して手をお断りしようとした、その時です。
「――おいおい、そこの不審者。うちのkanaちゃんに急に重い愛をぶつけるのはやめとき」
人ごみを押し分けてやってきたのは、先ほど樹海でお世話になりましたkagerou様でした。
「kagerou……! 貴様、kana様のような至高の天使を危険な樹海に放置した罪は重いぞ! 切腹ものだ!」
「俺が放置したんちゃうわ! この子が勝手にチュートリアル全スルーで突っ込んでいったんや!!」
「なんですと……!? チュートリアルなどという無粋なシステムに従わぬとは……流石は我がkana様! なんという高貴なる自由奔放さ……ッ!(キュン死)」
「話聞いてへん!! 完全に狂信者化しとるやないか!!」
kagerou様とNatuki様がギャーギャーと言い争いを始められ、街のプレイヤー様たちが「またkagerouが変な奴に絡まれてる」「あの美形ネカマ、完全に落ちてるぞ」と遠巻きにクスクス笑っていらっしゃいます。
「ふふ、お庭の住人様方は、皆様とっても仲良しで賑やかですのね、マーブルちゃん」
「……くぅん(ブルブル)」
わたくしの腕の中で、マーブルちゃんがプルプル震えながら、小さなあくびをひとつ。
頼もしい(?)肉壁のNatuki様も仲間に加わり、わたくしたちの「お庭(VRMMO)散策」は、街に到着して早々、さらに賑やかな大騒動へと発展していくのでした。
コメント
1件
もうお嬢様の世界観が最高です……!「立派なトカゲさん」でドラゴンもm@rioさんも骨抜き、さらにマーブルちゃんの“キュン♡”一撃でLV90が膝つく流れ、腹筋やばかったです。ボケ倒すコメント欄と、無自覚に進むkana様の化学反応がたまらないですね。街でのNatukiさんの登場も既に面白すぎて、次話が待ち遠しいです🤍