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「……ふむ。
ドルミンと申したか?
確かに、我はその者の謝罪を受け入れ、
封じられた魔法を元に戻してやった。
それは事実だが」
銀のロングストレートの髪に、切れ長の目をした
女性―――
人間の姿になったフェンリルのルクレさんが
長テーブルの端から、そこに座る連中を見渡して
声をかける。
「その時、自分の名を出しても良しと、
許可もしております。
ただそれは、あくまでもこれ以上の争いを
ルクレセント様が望んでおられぬため。
特に幼子やその母親を巻き込む事を、
看過出来なかったためです」
次に、黒髪に犬のような耳と巻きシッポの
獣人族の少年が、彼女の隣りで告げる。
ここ、フラーゴル大陸・モトリプカ……
その首都・エムビーアにおいて、
かつてのメナスミフ自由商圏同盟の内戦の
和解後、
奴隷や亜人・人外への寛容政策へ方針転換
せざるを得なかったモトリプカ側が、
それまで侵攻・支配してきた国々の代表者と、
『話し合い』を行うために会議を提唱。
だがその中に、フェンリル様と和解した上、
その名前を出してまでの交渉に―――
亜人・人外サイドが不信感を持ち、
もしフェンリル様の話が本当であれば、
確認させて欲しいという理由で……
同時に、神獣であるフェンリル様に直々に
会いたい、というのが半々だろうが―――
それで引き合わせる事になったのである。
「フェンリル様に対し、もし不敬な対応で
あったというのなら、ここで謝罪を」
「もはや疑いはございませぬ」
被支配層である彼らの代表は、やはり獣人が
最も多く、
次いで鬼人族のような有角人や、翼のある種族、
リザードマンのような種族もいて、
今度は着席したまま深々と頭を下げる。
「(やはりあの登場の仕方はスゴかったねー)」
「(こういうのは最初が肝心じゃからなあ)」
アジアンチックな童顔の妻と、彫りの深い
欧米モデルのようなドラゴンの方の妻が
小声でささやく。
私と家族は席に着かず……
あくまでもフェンリル様の付き添い、
案内人として、長テーブルから少し離れた
場所で見守っていた。
「(おとーさんのアイディア、当たった
みたいだねー)」
黒髪ショートの、燃えるような瞳を持つ
娘もささやくように話す。
そう、これは私のアイディアで―――
最初にインパクトを与えて度肝を抜こうと
考えたのだ。
まず、羽狐たちを登場させて、
地上に注目させ、
その間に、上空にスタンバイさせていた
浮遊島から、ワイバーンにフェンリルの姿の
ルクレさんとティーダ君を運んでもらい、
頃合いを見計らって、ギリギリの高度で
2人を放す。
地上に気を取られていた彼らには……
突然、神獣であるルクレさんが降ってきたと
思ったに違いない。
これで仕込みの第一段階は終了。
さてお次は―――
「い、今ひとつ……
無礼を承知でお願いがござります」
そこで声を発したのは、白髪の毛並みに
白いヒゲのある猫タイプの獣人の老人で、
「何だ? 申してみよ」
ルクレさんが威厳維持バージョンで、
彼に聞くと、
「な、なにとぞ―――
フェンリル様である事の証明に、そのお力を
この目に……!!」
「まだ疑うと言うのですか?」
ティーダ君がにらむようにその老人に
視線を向けると、
「めめ、滅相もございませぬ!!
ですが、噂でしかフェンリル様の事を知らぬ
者―――
半信半疑の者も故郷にはおりますれば。
もしこのまま我らが戻りましたら、
『幻影魔法』でも使われたのだろう、
と信じてもらえぬかも知れません。
で、ですのでどうか一つ……!!」
恐れながらも、声を振り絞るその姿は
同情すら誘う。
だが確かに言い分はわかる。
ランドルフ帝国でやったあの合同軍事演習でも、
各国に戻った使者たちはまずそれを疑われた
らしいし―――
(■221話 はじめての だいじん参照)
そしてそれも当然想定済みなわけで、
「ルクレセント様」
「とはいえ、いったい何をすれば」
モトリプカ側の代表である、
アラフィフの、やや青みがかった短髪に
白髪が混じる男性、
そして彼の従者である、赤い短髪の青年が
不安そうに女性の姿であるフェンリルを
見つめ、次の動向を窺う。
するとルクレさんが、
「ああ、それなのだが」
と言って獣人族の少年に視線を移すと、
彼は軽く会釈して、
「実は僕の提案にて……
すでにルクレセント様には、お力を使って
頂いております」
ティーダ君の言葉に、出席者は顔を
見合わせる。
「万が一の事があってはならない、
そうティーダに言われてのう。
悪いが、この周辺の者たちの魔法を
封じさせてもらったぞ」
彼女がそう言うと彼らはざわつき始め、
「ブ、身体強化が使えない!」
「ワ、ワシの火魔法もだ!」
「魔力はあるみたいだが、魔法が発動せん!!」
亜人・人外たちは慌てふためき、
「ル、ルクレセント様!」
「これはいったい―――」
すでにその洗礼を受けた事のある、
ドルミン様とプラクスは顔色を変えるが、
「フェンリル様に危害を加えようとする、
不届き者がいないとも限りません。
なのでこの話し合いとやらが終わるまで、
あなた方の魔法を封じさせて頂く事を
進言したのです」
「大丈夫だ。
この会談が終わり次第、すぐに戻して
やろう。
それで、我が我である事の証明……
これで気が済んだか?」
魔法が封じられた事を自分の身で理解した
彼らは、ブンブンと頭を縦に振る。
「(おー、まあそうなるよねー)」
「(これで逆らう気も失せたであろう)」
「(相変わらずおとーさんの能力、
とんでもないなー)」
メルとアルテリーゼ、ラッチが口々に
感想を語る。
実はこれも私の策で、ルクレさんが
フェンリルである事の証明を、と言い出す
ヤツはいるだろうから、
彼女が空から登場し、その後、フェンリルの
姿のままで咆哮した際―――
それに紛れて小声で、ここら一帯の魔法を
封じさせてもらったのである。
もちろん、ルクレさんやティーダ君、羽狐たちや
家族は別だ。
「では存分に語り合うと良い。
我に希望などあれば、可能な限り聞いて
やるでな」
そして神獣・フェンリル様を司会もしくは
仲介役として……
彼らは交渉を再開させた。
「では当面の間は自治権の拡大―――
そして奴隷の待遇緩和を中心に動く。
それとフェンリル様の御指示により、
魔導塔の隷属機能の停止、そして
幼子及びその母親を争いに巻き込む事を
禁じる契約を、双方で結ぶ」
ドルミン様が、書面を両手で持って演説する
ように列席者たちに語る。
周囲で見守るあちらのメンバーも、
これで一段落したと安堵の表情を見せ、
このまま会談は何事もなく終了するかと
思われたその時、
フェンリル様の力の証明を、と申し出た
あの猫タイプの獣人の老人が、ゆっくりと
ルクレさんの前に歩み出て来た。
それを見て従者である羽狐たちが、2人を
守るように立ちはだかるが、
「何かまだ用か?」
彼らをどかすように、ルクレさんが
獣人の前に立つと、
「……お答えを頂きたく。
この質問は大変無礼である事を
承知の上で―――
このまま魔法を封じられ続けても、
もしくは命を失っても構いません。
よろしい、でしょうか」
文字通り命をかけた申し出に周囲は
戸惑うも、
「よい、申してみよ」
ルクレさんは表情を変えずに年老いた
獣人に返す。
しばらく彼は沈黙していたが、やがて
意を決したように口を開き、
「ルクレセント様は……
あの内戦の最中に現れ、魔導塔や
モトリプカ、またはそれに組する者たちの
魔法を封じたと聞いております。
この地に平和が訪れ、また我らへの扱いが
各段に改善される契約を結べたのも、
神獣・フェンリル様のおかげなのでしょう。
その上で―――」
そこで彼はいったん間を置いて、
「その上で言わせて頂けますれば、
なぜに、もっと早くこの地に来て
くださらなかったのか……!?
モトリプカが我らの地を奪う前に!
いや、その侵略の最中でも!!
なぜ、なぜもっと早く……!!
さすれば娘は、孫は……!!」
最後は嗚咽になり、言葉は聞き取れず、
見れば他の人外・亜人たちも涙を流す者もいる。
これは言いたくなる気持ちもわかる。
強大な力を持ち、非道な事を許さないと
いうのであれば―――
その力でもっと早く救って欲しかった、
という不満はあるのだろう。
肉親を失っていればそれはなおさら……
そして私はそうなった話が出た場合の対応策も
提案していて、
「フェンリル様は本来、他種族の争いに
関与したりは致しません。
興味もありません。
ただ非道な事はするなと―――」
ティーダ君がいつものようにフォローしようと
すると、妻(予定)である彼女がそれを手を
かざして止める。
「老人よ」
死を覚悟しての問いをした獣人は、
それを受け入れるかのように黙って
佇むが、
「まず言わねばならぬ事がある。
我の力はどうも二通りあるようでな。
一つは意図的に使う力。
そしてもう一つは、無意識に発動して
しまうものだ」
「これは、どうもルクレセント様の意志に
関係無く……
多少の縁が出来てしまった場所に発動する
みたいなのです。
こちらはフェンリル様でもどうしようも
ありません。
その解除は出来ますが」
次いでティーダ君がフェンリルの力について
説明し、
「で、では意図的であれば―――
介入出来たのですか!?」
獣人族の老人はなおも言葉を続けるが、
「彼らを見るがいい」
その答えというように、そのままルクレさんの
指先には……
従者である羽狐たちがいて、
「我はかつて、彼らの中で銀の毛並みを持つ者を
褒めた事があった。
何の他意も意図も無い。
ただ我は、その見事な毛並みを褒めたに
過ぎなかったのだ」
周囲の各代表者たちもその話に耳を傾け、
「結果、どうなったか。
彼らは銀の毛並みだけを重宝するようになり、
やがてそれは彼らの至上の価値となり、
遂には、我に会うには銀の毛並みでなければ
ならぬと、誤解させてしまった。
そして長年、彼らを苦しめてしまったのだ。
羽狐としての生を狂わされた者もいよう。
100年、もしくはそれ以上―――
あの何気なく不用意に言った一言で、な」
そう言った後にルクレさんは、獣人の老人に
振り返り、
「我はそれを知った後、非常に後悔し、
彼らに謝罪した。
言葉一つ取ってもそうなのだ。
強大な力を持つ者は、好き勝手に動けぬ。
動いてはならん。
動いた後、それが与えた影響でどうなるか
わからぬし……
その責任も当然取らねばならぬからだ」
そして彼女は優しく彼の肩に手を置いて、
「今回、ザハン国とは多少の縁が出来て
いたので、加担する事となった。
逆に言えば、意図的に我が動く場合、
こういう形でしか出来ん。
お主も無念であっただろうが―――
許せ」
ルクレさんの謝罪を聞いた老人は、
その場で地面に両手をついて、
「ど、どうかお許しを……!!
ルクレセント様の御心も知らず、
見当違いで無礼な事を申しました!!
この老いぼれの命でよければ……!」
文字通り命をかけて彼は謝罪するが、
「お主は生きよ。
先ほどお主が申した娘や孫に代わり、
平和となる世を見届け、守るのだ。
お主のような思いを、もう誰にもさせては
ならぬ―――」
「確かに……!
そのお言葉、確かに……!!
この残りの命全てをもって従います……!!」
獣人の老人はそのまま泣き続け―――
こうして、会談は幕を閉じた。
「終わった終わった。
やれやれ、ああいった格式ばった言い方は
肩が凝るわい」
「お疲れ様でした、ルクレセント様」
ザハン国商業都市・スタット……
あの後、私たちはモトリプカより戻り、
ロックウェル家のお屋敷で一息ついていた。
「お疲れ様でした、皆様。
どうぞごゆっくり」
この屋敷の主である、真っ白い眉毛にヒゲの
好々爺のような老人が労いの言葉をかけてくる。
「こちらこそ、度々お邪魔してしまい、
すいません」
私がお礼として頭を下げると、
「何の何の!
あなた方は、再び戦乱になる芽を
摘んで下さった。
こういった事は本当に難しいのだ。
これでまた、安全に商売が出来る世の中に
なるのであれば、お安い御用というもの!」
ベルマイヤさんは商売人としての本音を隠す
事なく、正直に告げる。
「じゃあ、さっそくだけどコレ、
ワタシらは届けに行くよ。
ホラ、アンタたちも立ちな!」
赤毛の、恰幅のいい女性―――
ブロウさんが動くと、
「ヘッ?」
「我々も……ですか?」
チンピラ風の細身の男と、それよりさらに
痩せた男性―――
ジャーヴさんとユールさんも立ち上がり、
「当たり前だろ!
情報は方々に届けなきゃならないんだ。
それがワタシらの仕事さね。
さぁさっさと行くよ!」
と、『見えない部隊』のメンバー3人は、
部屋を後にする。
情報共有が終わったらこちらはそれで任務完了
だけど、彼らはさらにその情報をあちこちに
伝えなければならないからなあ。
「フェンリル様や他の方々はいかがしますか?」
老人がこちらに視線を戻し、
「さすがに1日くらいは休ませてもらうよー」
「赤子がいるゆえ長居は出来ぬが、少しくらい
いいであろう」
「せっかく外国に来たんだしねー」
と、家族は観光にでも来たようにくだけた
感じになる。
同時に、育児疲れもあったのかなー……
と、少し反省し、
「なら、少し羽を伸ばして来たら?
前にここに来た時は観光どころじゃ
なかったし―――
いろいろな店を回ってきても」
そう私が提案すると、
「あれ? シンは?」
「一緒に来ないのか?」
メルとアルテリーゼが首を傾げると、
「メルおかーさんもおかーさんも空気読んで!
おとーさんと一緒だと、買いにくいものだって
あるでしょ」
そうラッチから指摘されて、私と2人は
顔を赤らめる。
「えーと、では……
シン殿はいかがしますか?」
「そうですね。
私の方は、この地の食材や調味料を
探してみようかな、と」
そこでティーダ君が片手を挙げて、
「あ、じゃあ僕もお付き合いします。
ルクレセント様は、シンさんのご家族と
同行されては」
「おー、そうやな。
女同士やし、それでええかも知れん」
こうして女性陣・男性陣に別れる事が決定し、
「しかし、買い物という事ですが―――
お金などは所持していらっしゃるので?」
そこへベルマイヤさんから的確な
ツッコミが入り、
忘れていた、と顔を見合わせる私たちに、
「ははは、冗談ですよ。
支払いの際は、ロックウェル家にと
お伝えください。
たいていの店はそれで通りますから」
「い、いえ!
そこまでして頂くわけには……」
「いやいや、商売人のカンが言っておるの
ですよ。
この人脈を絶対に逃がすな! とね。
もし辺境大陸と交易が始まりましたら、
その時はよろしくお願いしますぞ」
と、急にパトロンが出来た事で―――
私たちは言葉に甘え、出掛ける事にした。
「結構、いろいろあるなあ」
「でも、ほとんど辺境大陸で出回っている
野菜と同じか、似たような感じです」
ベルマイヤさんに紹介してもらった市場で、
私とティーダ君はいろいろな農作物や調味料を
見て回る。
「多分、ランドルフ帝国経由でこちらに
出回っているものもあるんでしょうね」
私が野菜や果物を手に取りながら話し、
「そういえばティーダ君。
婚約の話が出てからだいぶ経つけど……
正式な結婚の話はまだなの?
まあ、国の意向もあるんだろうけど」
ふと、私は彼がまだ婚約状態なのを思い出し、
それについてたずねると、
(■80話 はじめての あいさつまわり参照)
「う~ん。
チエゴ国としては大々的にやりたい
みたいなんですけど―――
僕は王族でも何でもありませんし、
そのあたりで調整というか、いろいろ
考えているんだと思います」
彼の話にふむふむとうなずく。
確かに、王族との結婚であれば国を挙げて、
になるだろうけど……
ティーダ君は父親がナルガ辺境伯の部下という
だけで、身分自体は平民。
いくら神獣・フェンリルとの結婚とはいえど、
王族より豪華にしてはならないとか―――
そういったしがらみもあるんだろうな。
「ん?」
そこで私はふと、農作物の中から見慣れた
穀物を見つけた。
それは、地球でいうところのトウモロコシに
そっくりで、
「あの、これは?」
店の主人にそれを持ってたずねると、
「あー、ンなものが入っちまってたか。
それ、味は悪くないんだがなあ。
扱いが面倒で……
人間以外の種族がよく食ってんだが。
奴隷か相当な貧乏でなけりゃ、人間は
まず食わないね」
それを聞いてティーダ君が微妙な表情になる。
ザハン国とて、少し前までは奴隷や亜人・人外に
対する扱いはこんなものだと嫌でも理解する。
「これ、どこで採れるんですか?」
私は表情を変えずに質問を続け、
「そんな物に興味があるのかい?
物好きだねえ。
場所ならここからすぐ近くだけど―――」
そうして私は店の主人から、トウモロコシの
『場所』を教えてもらった。
「……畑、じゃないんですね」
教えてもらった場所には小一時間ほどで
到着したが、
そこはうっそうとした森の中であり、
あちこちにトウモロコシが生えていて、
「何か勝手に生えているのを持って行くって
感じなのかなあ」
困惑しているティーダ君に、私は答える。
しかしどうしたものか―――
本当に勝手に持っていいものかどうか
悩んでいると、
「誰だ!?」
大きな声がしてそちらに振り向くと、
そこにはあの会談の席で見た、リザードマンの
ような亜人がいて、
「あ、あのすいません。
私たちは辺境大陸から来たもので……
出来れば、ここにある農作物を少し
分けて欲しいと思って来たんです」
「あぁ!?
あんな物、お前みたいな人間が食うわけ
ねーだろ!」
「それとも何か!?
それすら取り上げに来たのか!?」
「そちらの少年は獣人のようだが―――」
と、後からわらわらとリザードマンたちは
現れて、最初からケンカ腰で来られて話に
ならず……
どうしたものかと思っていると、
「待て。辺境大陸から来たと言ったか?」
「そういえば、亜人・人外への待遇改善のため、
フェンリル様一行が来られたと聞いているが」
「お前たち、それに関係あるのか?」
やはりあのモトリプカでの会談は、人外サイドに
注目されていたのか、そんな話が出て―――
私はチラ、とティーダ君に視線を送ると、
「……申し遅れました。
フェンリル様の番となる身であります、
ティーダと申します」
獣人族の少年がそう言うと、リザードマンたちは
その場に次々と跪いて、
「ここ、これは大変失礼を!!」
「しかし、なぜ人間と一緒に」
同行している私に疑問の目が向くと、
「この方は、フェンリル様の親友のドラゴンを
妻としており―――
またフェンリル様の信頼も大変厚い人物です。
無礼は許しません」
するとリザードマンたちは慌てふためいて、
「ご、ご無礼をいたしました!!」
そう謝罪してくるが、
「いえ、私はただこの農作物を持ち帰らせて
頂ければと思っただけで。
数本でいいのですが……」
私の言葉に彼らは顔を見合わせる。
あれ? それもダメなのかと考えていると、
「じ、実はその―――
いつもであれば問題は無いのですが」
「今はとある事があり、とても貴重で」
見た感じ、結構あるみたいだけど……
不作なのかな?
それとも食料を必要とする子供たちの数が
多いとか?
そう思考を巡らせていると、
「!!
お逃げください!!」
「ヤツが来ます!!」
彼らは何かに怯えたように、そちらへ視線を
向けると、私たちもそれに引っ張られ、
「あれは―――」
ティーダ君がそう言うと同時に、湿ったような
匂いが鼻を突く。
私たちの視線の先、そこには……
体長3メートルになろうかという、
「巨大ナメクジです―――」
「何の原因か、ここに出現するようになって
しまいまして。
コイツが片っ端から農作物を食い荒らすので、
子供たちに食わせる分もギリギリで……!」
そいつは我関せずというように、
トウモロコシをムシャムシャと食べ歩き、
「クソ、こっちが手も足も出ないと思って
いやがる」
「実際そうだからな―――
アイツが気が済むまで食うのを、
ただ見ているしか……!」
どうやら彼らにはお手上げのようで、
その巨大ナメクジのさせるがままにしているが、
「倒しちゃダメなんですか?」
私がそう聞くと、
「それが出来れば苦労はしません」
「ここに被害を出さないように、
アレを何とかしなきゃならないんです」
「それとも何か方法が?」
苛立ち半分、懇願半分といった目で彼らは
視線をこちらに集中させる。
「んじゃちょっとやってきます」
「はい、シンさん。
お願いします。
みなさんはちょっと下がって―――」
私はティーダ君にそう告げると、彼は手慣れた
感じでリザードマンたちを下がらせる。
さすがにフェンリルの番という少年に彼らは
逆らう事は出来ず、大人しく引き下がるが、
私はその間に巨大ナメクジに近付いて、
「そのように巨大になる、ましてや陸上で
そこまで成長する、軟体動物など……
・・・・・
あり得ない」
そう小声でつぶやくと、巨大ナメクジは
その巨体を地面に倒して、
「え?」
「は?」
「ん?」
リザードマンたちの目の前で、取り敢えず
問題は片付いた―――
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