テラーノベル
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店内に入ると更に香ばしい匂いと各々楽しそうにジュージューと焼いている音に包まれた。
私はいろいろな期待感の中、案内された席に座り店内を見回した。
所狭しと壁には有名人のサインが貼ってある。ほぼ芸人さんのそれに私は更に高揚していた。大御所の師匠から寄席を主にしている若手芸人さんなどのものである。
「由布ちゃん、お笑い好きだからここ喜ぶと思ってさ。もちろん味も抜群だから。」
「わ〜嬉しいです。そんな事も考えてもらって
有難うございます。」
そう言うとメニューに目を向けおススメのお好み焼きを注文した。
大方調理したものがテーブルの鉄板に運ばれて各々仕上げに両面焼き目をつけるくらいの作業だがそれくらいのことでも2人で作る感がとてもとても楽しかった。
向かいに座っている絃さんの顔が鉄板からの湯気やら油煙やらで見え隠れしはっきり目を合わせられない今がチャンスだと思い、どうにでもなれ!と勇気を出して言ってみた。
「ケンケンさん、おソース取ってくださいな〜」
なんとも桃太郎のお供の様な言い回しだが
ふざけた感じで言ってみただけですから〜
みたいにしれっと宿題を提出してみた。
もしかしたら店内のいろいろな音にかき消されてしまったかもしれない。
しかし絃さんは一瞬焼く手を止め湯気の間からこちらを見つめて
「はいはい、ユウユウどうぞどうぞ〜」
(え?今’ユウユウ’て言ったよね⁉︎)
絃さんはケンケンに合わせて私をユウユウと呼んだ。
しかもセリフの様な言い回しまで私に寄せてくれたのだ。
私はソースを受け取り恥ずかしくなって固まってしまった。
「ユウユウ、宿題はクリアだね!合格合格〜」
「え、あ、あの大丈夫でしたかそれで…」
「大丈夫もなにも、一生懸命考えてくれたんだなと思ってさ。ありがとうな、嬉しいよっ。」
「なんかパンダみたいで良くないとも思ったんですけど、合格で良かったです。」
案ずるより生むが易しだった。
それに絃さんの咄嗟の気の利いた返しが有り難かったが優しさも感じられ少し気恥ずかしい感じもした。
この時私は絃さんの置かれている立場にいろいろ案じるところはあったが、自分の素直な気持ちで接しても良いのではと少しだけまた思い始めていた。
そしてケンケンユウユウの調味料がお好み焼きの美味しさにプラスされ忘れられない味になった。
コメント
1件
第21話、読了しました…!「ケンケンさん」って言った由布ちゃんの勇気、めっちゃ伝わったし、それに「ユウユウ」って合わせて返す絃さんの優しさにじんわりきました🥺✨ ふたりでお好み焼き作る楽しさとか、湯気越しのやりとりの距離感がすごくリアルで、合格の言葉にほっこり。こういう「素直でいていいんだ」って思える瞬間、大切だなって思います。