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職員室にて。
「では、あなたは出来心で真似してしまっただけだということですね?」
生徒会長の奥出と元生徒会書記の後輩は、今まさに先生に説明しているところだった。
「そういうことです。元の犯人は見当もつかないです。そうよね?」
「あ、はい……」
後輩は奥出の話に合わせ、余計なことは何も言わないようにと釘を刺されていた。
「じゃあ、貝塚くんの件は……」
「それに関しては、私が怪文書を預けていたんです。それをたまたま見られてしまったようで、拓斗くんのクラスの担任が勘違いしてしまったんですよ。私も事情を説明したいと思っていたんですが……」
「それは先生が話しておきましょう。あの人、思い込みが激しいから」
拓斗は気づいていないが、実際、奥出は冤罪を防ごうと動いていたのだ。
拓斗のカバンから大量の怪文書が見つかった日の放課後、奥出は拓斗の担任に話をするため、職員室を訪れていた。
「先生、怪文書事件について話が……」
「これはこれは生徒会長の奥出じゃないか。それについてはもう犯人が見つかったんだ、お前が心配することじゃないさ」
「いえ、そうではなく……」
「いいから、先生は忙しいんだ。帰ってくれ」
他人の話を聞かない、で有名な拓斗の担任。奥出もこの先生が好きではないし、それどころか嫌っている。
「先生こそ、話を聞いてください」
「しつこいぞ。忙しいと言っているじゃないか。生徒会長だからってあまり調子に乗るんじゃない」
「職員室でたばこを吸いながらコーヒーを飲むことが、そんなに忙しいですか」
奥出は、先生にもお構いなく本音を話す。この担任、仕事という仕事はそんなにしていない。
「そういう態度はよろしくないなあ。反抗的なのは相変わらずだ」
担任は奥出の長い髪をさらっと撫でる。パワハラとセクハラのダブルパンチだ。
「気安く触らないでください。訴えられたいんですか?」
「そう怒るなよ。可愛い顔が台無しじゃないか」
「もう大丈夫です、あなたに話をしようとした私が間違っていたみたいですね」
これ以上担任と関わると鳥肌が止まらなくなると確信した奥出は、我慢できず、職員室を逃げるように去った。
さすがの生徒会長でも、一人で解決するには限界がある。だからこそ、拓斗の友人に協力を仰ぎ、拓斗の行動を誘導するよう仕向けたのだ。拓斗の弟、海斗が動くことも計算済みで、それによって後輩が触発され、拓斗に何か仕掛けるのを待っていたのだった。
「生徒会退会の書類です。先生にお願いしてもいいですか?」
「分かりました。奥出さん、あなたも大変だったわね。この件は適切に処理させてもらうから」
「ありがとうございます。では、私たちはこれで」
後輩が拓斗と同じ目に遭わないよう配慮し、奥出は無事にこの件を解決に導いたのだった。
奥出が助けに来てくれたおかげで、俺は二回目の冤罪を防ぐことが出来た。そして、そこから一週間後のこと。
「貝塚くん、少し職員室に来てもらえるかな?」
学年主任の先生が俺を職員室に呼び出した。
「奥出さんから事情を全て聞いて、職員会議の結果、あなたへの処罰が不適切だったことが決定されたわ。今日の放課後、貝塚くんのお宅に謝罪に行くことになったの。ご両親には承諾済みよ」
まさかの出来事だった。あの担任を差し置いて、俺の冤罪が今、晴らされたのだ。
「え、じゃあ、犯人は……」
「それは今回言及しないことにして、次回また同じようなことが起こった時、すぐ警察に通報するという処置をとらせてもらうわ。あなたにいたずらした子についてはもう対応済みだから安心して」
奥出が上手くやってくれたようだな。まあ、さすがに自首はしなかったか。
「そうなんですね。ありがとうございます」
「いいえ、こちらこそごめんなさい。もう少しちゃんと調査するべきだったのに、担任にも共有してあるから大丈夫だとは思うけれど、あの先生だから……」
「あー、大丈夫です。その辺は自分で何とかします」
学年主任はあのクソパワハラ教師が、何か俺に対して余計なことを言うんじゃないかと危惧しているみたいだが、あいつが行き過ぎた行動をすれば、友人の怒りの鉄槌が下ること間違いなしだから、多分大丈夫だ。
「そう? まあ、心配しても仕方ないし、また何かあれば相談してね」
「ありがとうございます」
職員室を出たところで、担任に出くわした。最悪のタイミングだ。
「貝塚、また問題を起こしたのか」
「違います。怪文書事件についての話を聞いていたんです」
「ああ、あれか。奥出が上手く言いくるめたようだが、先生は騙されないからな」
意地でも自分の非を認めない気だ。いい加減間違ってるって気づけよ。
「俺はやってないってずっと言ってましたよね。それを他の人が証明してくれただけです」
「本当に厄介な仲間を作りやがって、お前みたいな奴に協力する奥出の気持ちが、先生には分からないな」
「分からなくて結構です。俺はやってない、以上です」
俺はさっさと話を終わらせ、胸糞悪くなりながらも教室に戻った。
教室に戻り、席に着くと、クラスメイトの一人が俺に近づいてきた。
「貝塚、あの事件のことだけど、疑っててごめん。他の奴からお前が犯人じゃないことを聞いてさ、謝らないと、と思って」
「あ、いや、いいよ別に。あんな事件起きたら俺だって不安になるし、誰かを疑いたくなるよ」
「本当にごめんな。クラスのみんなにも伝わってきてるから、もう貝塚を疑う奴はいない」
他のクラスメイトも続々と俺に謝ってきた。それを遠くから見ている友人は、にやにやと薄ら笑いを浮かべている。
「誤解が解けて良かった。これも全部奥出の……」
「奥出? 生徒会長がどうしたんだよ」
「あ、いや、何でもない」
そうだ、みんなは『生徒会』がこの事件に関わっていることを知らない。奥出の名前を出してしまっては、あいつに関してあらぬ噂が立ってしまうだろう。
「でも先生は結構疑ってたからな、どうだろう」
「ああ、あいつはいいんだよ。勝手に言わせておけば、勝手に自滅するから」
「そうなのか? それなら、まあ、いっか」
ある程度話をした後、クラスメイトは徐々にはけていき、様子をうかがっていた友人が近づいてきた。
「拓斗、無事に解決したみたいじゃないか」
「本当にこれで終わりなのか、怪しいけどな」
「君にしては用心深いね。何か心残りでも?」
真犯人が分かっていない以上、先生たちは警戒を続けるだろう。奥出もこれからどう出てくるか分からない。このままゲームも終わってくれればいいのだが。
「心残りって程でもない。まあ、強いて言えば、クソ担任かな」
「あの人にはもう手を打ってあるから、安心していいよ」
「相変わらず対応が早くて助かる。お前の家系は本当、どうなってんだ」
いい加減あのクソパワハラ教師も歳だからな、きっとどこかに飛んでいくのかもしれない。
「僕はなるべく敵を作りたくないからね。勝手な事されると困るんだよ」
「でも、お前に対しては何もしてきたことないだろ」
「拓斗に何かを仕掛けるということは、僕に喧嘩を売るのと同じ、目障りなハエは叩き潰すのが一番手っ取り早いのさ」
友人を怒らせてはいけないと再認識した。いや、こうなると奥出も危ないのでは?
「奥出には、何もしないでくれよ」
「生徒会長? 僕が動く理由なんて一つもないじゃないか」
「いやあ、あいつも大概、俺にちょっかい出してるぞ」
俺が何も言わなくても動く友人だ。あの奥出でさえ苦戦するだろう。
「君にはいい刺激だと思う。僕は楽しみにしているよ」
基準がよく分からないが、とりあえずは安心ということだな。