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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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「エリオット」
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「ん?」
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朝だった。
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廃ビルの一室。
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二人は出発準備をしていた。
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銃の確認。
弾薬の確認。
食料の確認。
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いつもの朝。
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そのはずだった。
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「動くな」
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突然。
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ピザガイがそう言った。
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「え?」
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エリオットが首を傾げる。
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「何?」
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「ボタン」
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「ボタン?」
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ピザガイは無言でエリオットの胸元を指差した。
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見下ろす。
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「あ」
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掛け違えていた。
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一段ずつ。
綺麗に。
見事なくらい。
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「いつからだろ」
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「昨日からだな」
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「昨日!?」
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「気付かなかったのか」
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「気付かなかった」
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ピザガイは深いため息を吐く。
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そして。
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自然な動作で近付いてきた。
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「直す」
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「自分でできるよ?」
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「できてない」
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反論できなかった。
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エリオットは素直に立ち止まる。
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ピザガイは無言で向かいに立った。
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距離が近い。
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思ったよりずっと。
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最初のボタンが外される。
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一つ。
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また一つ。
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大きな指先。
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戦いで鍛えられた手。
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普段はショットガンを握る手。
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ゾンビを吹き飛ばす手。
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それなのに。
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今は驚くほど慎重だった。
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「……」
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「……」
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静かだ。
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妙に。
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エリオットは視線の置き場に困った。
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顔を見るのも変だ。
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手を見るのも変だ。
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だから何となく天井を見る。
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しかし。
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意識してしまう。
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指先が近い。
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ボタンを外す度に。
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手の甲がシャツの隙間をかすめる。
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本当に偶然だ。
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分かっている。
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それなのに。
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なぜか妙に意識してしまう。
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「エリオット」
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「は、はい」
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声が裏返った。
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ピザガイが眉をひそめる。
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「どうした」
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「なんでもない」
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「そうか」
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絶対なんでもなくなかった。
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心臓が少しうるさい。
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ピザガイは気付いていない。
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たぶん。
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いや。
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どうだろう。
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ボタンを留め直す手も。
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どこかぎこちない。
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昔なら。
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こんな作業は苦手だったはずだ。
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ピザ生地を破り。
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トッピングを落とし。
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箱を潰していた男。
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それが今は。
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ボタン一つ留めるだけで妙に慎重になっている。
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「……」
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エリオットはそっと視線を下げる。
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ちょうど。
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ピザガイも視線を上げた。
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目が合う。
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一瞬だけ。
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黒い瞳。
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青い瞳。
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誰も何も言わない。
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ただ。
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妙な沈黙だけが流れる。
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「あと一つ」
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ようやくピザガイが言った。
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最後のボタンを留める。
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それで終わり。
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本来なら。
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なのに。
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どちらもすぐには離れなかった。
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近い距離のまま。
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「……できた」
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「ありがとう」
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エリオットが笑う。
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いつもの笑顔。
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だが。
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少しだけ照れたような。
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そんな笑顔だった。
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ピザガイは視線を逸らす。
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「次から気を付けろ」
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「善処します」
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「信用できない」
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「ひどいなぁ」
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ようやく空気が戻る。
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二人は装備を持つ。
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出発の準備をする。
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けれど。
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部屋を出る直前。
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エリオットはこっそり胸元を見る。
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綺麗に揃ったボタン。
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そして。
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なぜか少しだけ頬が熱くなっている自分に気付いて。
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誰にも見られないように、小さく笑った。