テラーノベル
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重なり合っていた熱が引き剥がされ、俺たちが顔を上げると
そこにはスマホの画面越しよりもずっと鋭く、冷酷な獣の眼光をした男が立っていた。
紛れもなく、この間のオフ会で俺が会いに行った、逆廻ロウ。
いや、玲於が血を吐く思いで語った実の兄──
葛西壱馬その人が、三日月のような薄ら笑いを浮かべてこちらを見下ろしていた。
「なんでお前がここに…っ」
玲於が喉の奥で、獣の唸り声のような低い呻きを漏らす。
その瞳の奥には、燃え盛るような憎悪と、それ以上に深い場所にある原初的な恐怖が滲んでいた。
「久しぶりじゃん、大学入ってから全然連絡くれないしさぁ、寂しかったんだけどなぁ」
壱馬がニタリと口角を吊り上げ、ゆっくりと、獲物を追い詰めるように歩み寄る。
その長い足が一歩近づくたび、玲於の肩が微かに震えるのを俺は感じた。
けれど、玲於は瞬時に俺を背後に隠すように立ち上がり、壱馬の視線を遮った。
「お前こそ何しに来たんだ。もう二度と俺の前に現れるなって言ったはずだろ」
「つれないなぁ。兄ちゃんはただ、可愛い弟のツラを拝みに来ただけなのにさ」
壱馬が大げさに両手を広げる仕草は鼻につくほど芝居がかっていて
その軽薄な振る舞いの裏には、蛇に睨まれた蛙のような、肌を刺す威圧感があった。
「それにしても──」
突然、その蛇のような視線が俺へと向けられた。
琥珀色の瞳がギラリと不気味に光り、舌先で上唇をゆっくりと湿らせる。
その仕草が、どこか生理的な嫌悪感を呼び起こした。
「随分可愛らしい男の娘連れてるじゃん。『姫野 霄』くんだっけ? 前回のオフ会ぶりだよね」
「え、なんで俺の苗字知って……」
動揺が喉を締め上げた。
本名や苗字を明かすような真似は一度もしていない。
「ネットに流れている情報なんて、いくらでも引っ張れるからさ。君、SNSで『ソラ』って名前で裏垢とかやってるんでしょ?大学も昨日特定したんだよね」
「……は?さ、探るとか気持ち悪っ」
反射的に吐き捨てた言葉に、壱馬はくつくつと喉を鳴らした。
「随分と態度が変わるんだね。俺が玲於の恋人を寝取ってたって話、聞いちゃったから?」
「…!そ、それは…っ」
図星を突かれ、言い返せずにいると
玲於が「霄くん、黙ってて。こんなゴミと話す必要なんてないから」
と、制するように俺の手を強く引いた。
しかし、壱馬はそれを見て腹を抱えて笑い始めた。
「ハッ、辛辣な言い方じゃん。でもそういう生意気な目ぇしてる奴をグチャグチャにして泣かせるの大好物なんだよねぇ」
笑いが収まると同時に、その声色が一気に氷点下まで冷え込んだ。
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