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瓦礫の向こうで、歓声が上がっていた。
英雄が化物を倒したらしい。
剣が抜かれ、血が煙みたいに立ちのぼっている。
AX-017は、その少し後ろに立っていた。
拍手が届かない距離。
視線の端にも見えない位置。
誰かが一歩下がったら、簡単に見失ってくれる場所。
彼は待つ。
呼ばれるまで動かない。
「……後処理、入れ」
通信越しの声は短く、感情がなかった。
AX-017は頷いた。
誰にも見せない動作だった。
足元の瓦礫を踏み越えて
倒れたあれの前に立つ。
英雄はもう振り返らない。
AX-017は、手に持った装置を持ち上げる。
《因果残滓処理装置》
外装は擦れて、角が欠けて
雑に扱われてきた痕跡だけが残っている。
彼は、それを地面に置いた。
丁寧でも乱暴でもない
作業として最短の動き。
装置が低く起動音を立てる。
緑の光が、残骸に広がっていく。
空気が、静かに元に戻る。
誰かが後ろで、眉をひそめた。
「……なあ、あいつ誰?」
「知らねぇ〜、作業員じゃないか?」
「なんでまだ持ってんだ。あれ、どう見てももう終わっただろ」
AX-017は聞こえていない。
聞く必要がない。
処理が終わると
彼は装置を持ち上げ、肩に掛けた。
その瞬間だけ
彼の指がほんの少し強く、取っ手を掴んだ。
理由は分からない。
確認も、分析も、しない。
ただ
これが無いと、正常に戻れないと知っているだけだ。
「AX-017」
名前でもなく、番号でもなく
ただの識別。
彼は振り向いた。
「はい」
それだけ言って
彼は再び、人の流れの中に紛れた。
誰にも記憶されないまま。
世界がきれいになった理由だけを残す。
それすら、消したいけれど。