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剣を収めたとき
英雄は違和感に気づいた。
静かすぎる。
血と魔力が渦巻いていたはずの空間が
いつの間にか片付けられている。
残骸は残っているのに。
嫌な重さだけが消えていた。
英雄は振り返る。
人の流れの端。
誰も見ていない場所に
男が一人、立っていた。
地味な服装。
見向きもされない体格。
顔を見ても、印象的なところなんてない。
なのに。
あれを持っている。
異様に場違いな装置。
戦闘用でも、回収用でもない。
役目を終えたはずの道具を
彼は当たり前のように持っていた。
英雄は歩み寄る。
周囲の者は誰も気にしない。
視線が、自然と逸れていく。
「……お前」
男は、少し遅れて振り向いた。
「はい」
返事はすぐに返された。
警戒も、誇りもない。
英雄は装置を指さした。
「それは、もう使わないだろ」
男は一瞬だけ、間を置いた。
考えているようで
考える必要がないようにも見えた。
「承知しています」
淡々とした返答。
それなのに、 装置を持つ腕が、下がらない。
「……なら、なぜ持っている」
男は答えなかった。
答えを持っていなかったから。
代わりに、 小さく首を傾げる。
「これが無いと、正常に戻れませんので」
英雄の背中に、冷たいものが走った。
(……どっちがだ。)
問いは、喉で止まった。
英雄は気づいてしまった。
この男が
戦場を片付けているのではないことに。
戦場の代わりに、何かを引き受けている。
「名前は?」
英雄がそう聞くと
男はまた澄ました顔をした。
「AX-017です」
番号を 名前のように言った。
英雄は、それ以上何も言えなかった。
気づいてしまった以上 もう戻れない。
この男が、 誰にも数えられていないことを。
それでも、 自分より先に戦場を終わらせていることを。
「そうか」
英雄がそう言うと
AX-017は軽く頷いた。
それだけで、 彼は人混みに戻っていく。
誰の視線にも引っかからず
誰の記憶にも残らず
ただ一人
英雄の記憶にだけ残って。
英雄は、剣を強く握った。
勝利の重さが
少しだけ変わった気がした。