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第五話『冨土原』
高校三年生の三月の終盤、教室に静寂が訪れたとき、それはいつもと変わらない放課後が始まるはずだった。
「放課後、いいかな」
そういった花園さんは、いつもと変わらない表情で、なのにいつもより哀愁?とした感じだった。いつもよりほんのりと赤く染まった頬は、いつも不思議で純粋な彼女の物かと疑うほど、僕の心臓は脈を打った。
この時ばかりは、いつもボヤッとしているといわれる僕でも、そうした雰囲気につられてしまった。
「冨土原君、君のことが、好きです。」
彼女の顔を見たとき、そこには少し赤いキラキラ揺れる瞳があった。放課後少し窓から夕陽が差し、彼女と教室を赤くしたから。夕陽に照らされた花園さんは、少し大人らしく見えた。彼女から見れば、窓際の背を向けた僕の顔は赤くなっているのだろうか。
彼女からの告白は正直、期待はしていた。二人して内気だし、そもそも僕のことをどう思っているかだなんて、僕にはわからなかったから。ずっと知りたかった。僕も花園さんが好きだ。
でも、僕らは付き合いはしなかった。
そもそも花園さんから付き合ってほしいとまでは言われなかったし。そんな風に思ってしまって小石を蹴る。
最後に見た花園さんの顔は、いつもとは違って、残念なようで、安心したような顔だった。
「冨土原―かえろーぜえー」
誰もいなくなった教室に、のんきに末崎の声が響く。
「うん。じゃあ、帰ろう。」
最後に、ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。