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第十七章
覚醒
―白虎の咆哮―
「……(泣いてる……。あたし、また護れなかった……?)」
ゆっくりと意識を取り戻した琥珀は、そっと手を伸ばし、詞葉の頬へ触れた。
「……泣かないで……。大丈夫……だから」
「…うん……良かった……」
詞葉はその手を優しく握り返し、安堵の笑みを浮かべる。
――確かに触れられている。
なのに、何も感じない。
「(…これが、代償……)」
玄武から告げられた言葉が胸をよぎる。
それでも、琥珀が生きている。
その事実だけで十分だった。
「さて、と」
琥珀はゆっくりと身体を起こし、軽く肩を回す。
「羅刹くん。結界ありがと。あたし、行くよ」
「し、しかし白虎の巫女さま! まだお身体を休められた方が……!」
羅刹は慌てて引き止める。
だが琥珀は笑った。
「大丈夫。傷なんて全然痛くないし……なんだろ。身体中に力が溢れてる感じ!」
その瞳には、先ほどまでの弱々しさはもうなかった。
「……分かりました」
不安を残しながらも、羅刹は静かに結界の解呪を始める。
「本当に無理しないでね……?」
詞葉の言葉に、琥珀は振り返る。
「ありがとう……黒守さん」
少し照れたように笑う。
「……いや」
首を横に振った。
「ありがとう――詞葉」
優しく頭を撫でる。
その笑顔は一瞬で消え、真っ直ぐ刀骨へ向けられた。
「(また護られた……また泣かせちゃった……もう嫌だ
あたしが護りたい)」
その瞬間だった。
――白虎の爪と牙は、護るためにある。
「……!」
低く、力強い声が心へ響く。
辺りを見回しても誰もいない。
『護りたいなら唱えろ』
琥珀は双剣を強く握り締めた。
「……やる!」
静かに祝詞を紡ぐ。
「白刃二つに我が身を映し
白虎の息吹、筋骨に宿れ
穢れを断ちて血潮を奮い
今ここに、戦う身体となれ」
刹那――。
白金の雷が琥珀の全身を駆け巡った。
双剣は神々しい雷光を纏い、美しく輝きを放つ。
『我が爪と牙を宿す時、お前は常人を遥かに超える』
『だが、その力には……』
「そんなの関係ない!」
琥珀は白虎の言葉を遮るように叫んだ。
「みんなを護れるなら、それでいい!」
「白虎の巫女さま! 結界が解けます!」
「ありがとう、羅刹くん!」
次の瞬間。
「刀骨ぅぅぅっ!!」
ガギィィィン!!
双剣と拳が激突し、衝撃で地面が砕け散る。
「……ほぉ」
刀骨が口元を歪めた。
「俺と互角だと?」
さらに力を込める。
「女ぁぁ!!」
「女じゃない!」
琥珀は真正面から叫び返した。
「あたしは白峰琥珀!
白虎の巫女よ!!」
双剣が刀骨の拳を弾き返す。
初めて、真正面から渡り合った。
その頃。
「琥珀ちゃん……無理しないで……」
力を使い果たした詞葉の身体が崩れ落ちる。
「玄武の巫女さま!」
羅刹は即座に結界を張り直し、詞葉を抱き支えた。
「こちらを」
懐から小瓶を取り出す。
「神父さまの加護が宿る聖水です」
「……ありがとうございます」
詞葉は小さく頭を下げ、一口だけ口に含んだ。
「あらぁ」
赫夜は面白そうに目を細める。
「倒れちゃったのね、玄武の巫女ちゃん」
その瞳だけが細く笑う。
「でも当然よね。人一人を完全に治したんだもの」
――玄武の治癒。
その能力を静かに見つめる。
その瞬間。
「そこっ!!」
煉華が斬り掛かった。
「危ないわぁ」
赫夜は紙一重でかわす。
そして。
次の瞬間には蒼紫の背後へ立っていた。
「っ!?」
首筋へ冷たい刃が添えられる。
「動かないで?」
妖しく微笑む。
「青龍の巫女ちゃんが死んじゃう」
「……っ!!」
煉華は歯を食いしばった。
その時だった。
赫夜の表情が変わる。
「……刀骨」
「あぁ」
二人は同時に戦闘を止めた。
重苦しい空気。
世界そのものが押し潰されるような威圧感。
「……この感じ……!」
煉華の表情が凍る。
忘れるはずもない。
「右腕……!!」
闇の中から、一人の青年が静かに歩いてくる。
白い肌。
美しい黒髪。
穏やかな表情。
だが、その存在だけで誰も動けない。
「刀骨」
静かな一言。
「はっ!!」
刀骨は即座に跪く。
右腕は無表情のまま、その頬を打った。
パァン――。
乾いた音だけが響く。
「余計な事をしてくれたな」
「申し訳ございません!!」
あれほど圧倒的だった刀骨が額を地につけ、震えていた。
巫女たちは誰一人、言葉を失う。
「……行くぞ」
右腕は踵を返す。
「待ちなさい!!」
煉華が刀を構えた。
「逃がさない!!」
踏み込もうとした、その瞬間。
右腕は、もう目の前にいた。
「遅い」
ドゴォン!!
煉華の身体が宙を舞う。
大地を転がり、木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされた。
「緋月さん!!」
叫びだけが森へ響く。
右腕は殴った拳を静かに下ろし、小さく呟いた。
「……手応えがない」
その一言だけを残し、静かに倒れた煉華に視線だけを向けた
この日。
四神の巫女たちは、圧倒的強者の前に敗北を刻まれた。
それは、この時の彼女たちには到底届かない実力差を突きつけられた瞬間だった
コメント
1件
輪廻さん、第37話読んだよ〜!!🔥✨ 琥珀ちゃん、ついに白虎の力に覚醒したね…!「女じゃない!白虎の巫女よ!!」って叫ぶところ、鳥肌立ったしマジでかっこよすぎた😭💕 でも詞葉が倒れたり、煉華が右腕に一撃で吹き飛ばされたり…敵の強さエグすぎない!?「手応えがない」って台詞、怖すぎるよ…! 次どうなるか気になって仕方ない!続きめっちゃ楽しみにしてるね🌸