スタート
◆精神病院:面会の日
305号室の記録には、こう書かれていた。
《主たる人格:ナチ
旧主人格(ドイツ)は長期的に浮上せず》
そう、病院内ではもうすでにドイツではなく――
“ナチ人格こそが本体” のように扱われていた。
医師たちは言う。
「暴れることもなく、応答も穏やか。
こちらと理性的な対話が可能な人格を優先するべきです。」
……その結論がどれほど愚かか、
彼らはまだ理解していない。
◆イタリー来院
イタリーは面会受付の前で深呼吸をした。
イタリー「……本当に、会えるんね?」
「はい。305号室の“現在の人格”は安定していますから。」
職員はそう言った。
彼らにとっては、ナチこそ「安定」と呼ぶのだ。
だが、イタリーの目は笑っていなかった。
元二重人格者として、
“どんな人間が人格を乗っ取るのか”
“その恐ろしさがどう始まるのか”
知りすぎるほど知っている。
イタ王――かつて自分の中にいた別の人格。
彼を沈めるために何年も闘った記憶が疼く。
イタリー(……あの感じ。
多分もう、ドイツは……ほとんど戻れないんね。)
◆面会室
ガラス越し、拘束こそ無いが
白い部屋の椅子に座っている“彼”を見た瞬間――
イタリーは悟った。
見た目は、確かにドイツ。
だが、目が違った。
深い海の底から誰かが覗いているような、
静かで、冷たくて、何より嬉しそうな目。
その目がイタリーを見て、ふっと細めた。
ナチ「やあ。久しぶりだね、イタリー。」
ドイツの声で、
ドイツの表情なのに、
ドイツが絶対にしないタイプの“柔らかい笑み”。
イタリーは席に座らない。
背筋にぞわりと寒気が走った。
イタリー「……どうして……お前が、ここにいるなんね。」
ナチは肩をすくめる。
ナチ「だって。
“ここ”は……僕の部屋だろう?」
その言い回しは、
《僕の身体は僕の物じゃないか》
と囁くような支配の色を帯びていた。
◆職員視点:勘違いの会話
職員は二人の会話を横で見守りながら、
イタリーの険しい表情を不思議に思っていた。
(この人格は穏やかで礼儀正しい。
面会相手にも攻撃性が無い。
何が問題なのだ?)
だが、イタリーは震えている。
じっと、彼の“目”だけを見ていた。
◆イタリーの直感
イタリー(……完全に、乗っ取られてるんね。
こいつ……イタ王と同じだ。
いや……それ以上に、質が悪い。)
イタリーの喉が乾く。
二重人格を克服した者だけが理解できる、
“名前のつかない恐怖”が襲う。
ナチ「そんな怖い顔しないでよ、イタリー。
僕は君のことも、よく知ってるよ。」
イタリー「……お前が知ってるのは、
ドイツの記憶を漁っただけの情報なんね。」
ナチは嬉しそうに笑う。
ナチ「そうとも言えるし……
君は、僕のことを“名前で呼べる”じゃないか。
ねえ、久しぶりに呼んでみてよ。」
イタリーの心が凍った。
完全に確信した。
こいつは、“ナチ”そのものだ。
人格の皮をかぶった化け物。
◆病院側の誤解
「彼は安定しています。
対話ができていますし、暴力もありません。
落ち着いた状態と言えるでしょう。」
医師はそう説明する。
イタリーの目が怒りで揺れる。
イタリー「……あんたら、馬鹿なんね?」
医師「は?」
イタリー「その人格は……“大人しい”んじゃない。
獲物を騙すために大人しくしてるだけなんよ。
あんたら、捕食者の前で笑ってるだけなんね。」
医師は理解していない顔をした。
だが、ナチだけは分かっている顔で、
ゆっくりと手を振った。
ナチ「黙っててくれる? イタリー。
僕の計画を、壊すつもりかい?」
声は穏やか。
でもその目は――凶器だった。
うざいかもだけどいつもハート押してくれるゲストさんありがと
励みになってる
最後の空白増やすようにした。読みやすくなってたらいいな
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