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訓練終了後――。
夕暮れに染まるグラウンド。
赤く焼けた空の下、公太は隊員たちと教官の前に立っていた。
しばらく黙っていた彼は、ゆっくりと頭を下げる。
「……悪かった」
その言葉に、周囲は静まり返った。
先日の騒動。
勝手な行動。
仲間との衝突。
すべてを理解した上での謝罪だった。
教官・原田は腕を組んだまま、公太を見つめる。
やがて口を開いた。
「……分かった」
公太はゆっくり顔を上げる。
だが次の言葉で表情が固まった。
「ただし、今日遅れた分は明日取り戻してもらう」
「……は?」
原田は無表情のまま続ける。
「グラウンド二十周のメニューがある」
一拍置き――
「お前は三十周だ」
「はぁぁぁっ!?」
公太の絶叫がグラウンドに響いた。
「なんで俺だけなんだよ!」
その姿に隊員たちが吹き出す。
「お前が問題起こしたからだろ!」
「頑張れよ武藤!」
「十周くらい誤差だ誤差!」
笑い声が広がる。
少し前まで向けられていた冷たい視線は、そこにはなかった。
原田が鋭く声を飛ばす。
「返事は?」
公太は肩を落としながらも、小さく息を吐く。
そして観念したように答えた。
「……はい」
その返事に、隊員たちから再び笑いが起こる。
離れた場所でその様子を見ていた牧田は、小さく笑みを浮かべた。
(変わり始めたな)
短気で真っ直ぐで、不器用な少年。
だが今の公太は、少しだけ違っていた。
力だけではない何かを、確かに学び始めている。
牧田はそう感じていた。
――――――――――
そして迎えた最終日。
アスガルト特別訓練の締めくくり。
広大なグラウンドでは、模擬戦形式による最終トレーニングが行われていた。
掛け声。
足音。
舞い上がる砂埃。
隊員たちはこれまで積み重ねてきた成果をぶつけ合う。
その中心には、公太の姿があった。
汗だくになりながらも仲間たちへ指示を飛ばし、誰よりも前へ出て動いている。
「おらぁ! もっと速く動け!」
「武藤! お前が速すぎるんだよ!」
「文句言う暇あったら走れ!」
隊員たちから笑いが起こる。
少し前なら考えられなかった光景だった。
公太はいつの間にか、仲間たちの輪の中にいた。
認められ始めていた。
それは決して強さだけでは得られないものだった。
張り詰めた日々。
ぶつかり合った時間。
耐え続けた訓練。
その全てが、少しずつ実を結び始めていた。
だが――
次の瞬間。
「グギャァァァァァアアアッ!!」
地の底から響くような咆哮が空気を切り裂いた。
全員の動きが止まる。
笑い声も消えた。
「……なんだ?」
誰かが呟く。
その瞬間だった。
空気が変わる。
空の色が不自然に揺らぎ始める。
大地が微かに震えた。
訓練ではない。
模擬戦でもない。
本物の異変。
本物の脅威。
誰もが本能的に理解した。
何かが来る。
確実に――こちらへ。
公太はゆっくり拳を握る。
その瞳から迷いは消えていた。
そして遠くの山々の向こうから、再び咆哮が響く。
戦いは、まだ終わっていなかった。
コメント
1件
公太がようやく謝れて、仲間たちに笑い返してもらえるようになったシーン、じんわりきましたね。あの「三十周」のやりとりで空気が一気に柔らかくなって、読んでるこっちもほっとしました。でも最後の咆哮でまた緊張が走る…。戦いが終わってないどころか、本番はここからなんだろうなという予感がします。続きがすごく気になります!